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(インタビュー)新たな価値を生み出しつづける「完成しないオフィス」が誕生――GINZA SIXからはじまるプレイドの挑戦

CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を提供する株式会社プレイドは、2018年7月初旬よりオフィスを品川区五反田から中央区銀座・GINZA SIXのオフィスフロア10Fへ移転しました。そして、新オフィスは、社員一人ひとりがその時々のニーズを踏まえ、アップデートしつづける「完成しないオフィス」というコンセプトを掲げています。世界中から多くの人々が訪れる銀座、その新名所でもあるGINZA SIXという場を、なぜ新天地に選んだのか。そして、「完成しないオフィス」とは、どのようなものなのか。移転の舞台裏について倉橋健太CEOに話を聞きました。

「僕らにふさわしくないから選んだ」GINZA SIX

―オフィス移転に至った経緯は?

五反田のオフィスが150坪弱だったんですけど、だんだん手狭になってきたこともあって、2017年の春頃から移転を考えていたんです。広さとしてはだいたい500坪くらい、全社員がワンフロアに入れることが最初の条件でした。コミュニケーションがしやすいですし、ある種の「熱量」が伝わっていくからです。

それで、いくつか物件を見てみたのですが、広さ以外の条件に合う物件があまりなくて。それならいっそ、五反田の手狭なオフィスのまま、あえて全員でストレスフルな環境での体験を共有するのもありかと、いい物件が見つかるまでストップしていたんです。

そして今年に入って、いよいよオフィスに席を増設する余裕がなくなるほど手狭になって、同時期にファイナンス(資金調達)も検討することになった。それで、あらためてオフィス仲介会社へ物件の紹介をお願いしたんです。渋谷や目黒など、いくつか物件を見せてもらったなかにあったのが、GINZA SIXのオフィスフロアでした。

おそらく、仲介の担当者も「ここは選ばないだろう」と思っていたかもしれません。よくあるじゃないですか、物件を見るときに「ここは条件バッチリなんですけど……ちょっと予算オーバーですよねぇ」みたいな。まさにそんな感じ。だけど、僕も、同行していたCTOの柴山(直樹)も、「どう考えても、ここしかない」と、初めて行った時、直感的に思ったんです。

―「どう考えても、ここしかない」という、その直感とは?

やっぱりインパクトありますよね、有名な場所ですし。そもそも、「僕らにふさわしくないから選んだ」というのが大きな理由なんです。正直なところ、賃料はいちばん高かった(笑)。投資家も銀行も、「なんでそこまでオフィスに投資するの?」と驚いていました。

確かに、もっと素直に条件と適合する物件なら、ほかにもあったんです。でもそれではあまりに自然体すぎて、刺激がない。オフィス移転という経営的にも大きなイベントを捉えたとき、もっと新しいものを見つけることができて、ブレイクスルーを求められる場所がいいな、と。

GINZA SIXはオフィス面積も今の4倍以上あって、ファシリティもしっかりしていて、最新の環境がある。「社員が日々、オフィスにどうエントリーするか」って、とても重要だと考えていて、「さあ、仕事をしよう」と意気込むようでは、あまり面白いパフォーマンスが出ないと思うんです。もっと自然に、「そういえば事業やプロダクトのことを考えていた」という平熱な状態をつくり出せるのが理想的。

そうなると立地はとても重要。周りにオフィスビルが立ち並ぶような街ではなく、オフィスを出た瞬間、GINZA SIXの他にも最新の商業施設や高級ブランドの路面店、高級レストランはもちろん、小さな老舗のラーメン屋さんもある。

それに日本人だけでなく、世界中から人が集まっていたり、伝統とトレンドが交錯していたりもする。それでいて朝は静寂に包まれているカオスな「銀座」という街には、東京の他のどんな街でも感じられないエネルギーが渦巻いていますよね。最高にクリエイティブだな、と思ったんです。

プロダクトのフィロソフィーに通じる「アップデートしていくオフィス」

―場所が決まったら、次は「どんなオフィスを作るか」ですね。

そう、やっぱり「これまでできなかったことができる!」と、まずは「全部入り」みたいな感じで、どんどんアイデアを詰め込んでいきました。あれもしたい、こんなスペースも作りたい……というみんなの思いを集約して、パースを作ってもらったんです。本当に完璧なイメージで、「めちゃくちゃいいオフィスだな」と思えた。でも・・・。

ずっと何か違和感が拭えなかったんです。この違和感は何だろうって、週末にふとモヤモヤと考えはじめたら、止まらなくなってしまって……それで気づいたんです。あくまでオフィスは会社と事業を成長させるための手段なのに、オフィスを作ること自体が目的になってしまっている。このまま進めても本末転倒なのでは、と、一旦白紙に戻してもらうことにしました。

―「週末に考えた」というメモには、オフィスのあり方というより、経営理念や人材育成の根幹となるような考えが書き連ねてあったとか。

あらためて会社のミッションやビジョンを考えて、直面している事業課題や会社がおかれたフェーズ、今後の計画やそこで起こりそうなことに照らし合わせながら、真剣に考えてみました。僕らのプロダクトである「KARTE(カルテ)」からも考えてみようと、いろんな角度から思考を巡らせたのです。

僕らは基本的に、自分たちがやりたいことを事業として行っているし、仕事のなかでもっともプロダクトについて考える時間が長いわけです。すなわち、自分たちらしさが一番滲み出ているのがプロダクト。それなら、1日のうちもっとも長い時間を過ごすオフィスにも、プロダクトのフィロソフィーが反映されてしかるべきなのではないかと考えました。

僕らの事業を捉えてみると、複数のプロダクトがつながるプラガブル(接続可能)なものであり、さまざまなインプットとコラボレーションを踏まえて、アウトプットが生み出されます。また、データ解析のスピードはリアルタイムで、次々に更新されていく。そういったイメージから見えてきたのが、「完成しないオフィス」というコンセプトだったのです。

「完成しないオフィス」というのは、つまりSaaSのようにアップデート可能なオフィスというプロダクト、ということ。「MVO(Minimum Viable Office:実用最小限のオフィス)」という形で、当初は本当に最低限のファシリティしか用意しません。

そもそも疑問に思ったのは、なぜオフィスはすべて完成品としてローンチされなければいけないのか、ということ。固めきってしまうと、後から修正するのが難しくなってきます。それは、僕らが環境に対して学習するうえで阻害要因となりかねない。「オフィスはこういうものだから」と作ってしまう前に、本当に必要なものかどうか、検証してみてから採用すればいいのではないかと考えたんです。

与えられた環境に満足して、思考停止したくはない

―実際にできあがったオフィスはどういったものになったのでしょうか。

まず、エントランスがあるようで、ないんですよね。そのままひとつの大きなワークスペースへ入ることになります。個室は一つもないし、遮るような壁もパーテーションもない。ワークスペースには基本となる机と椅子が並べてあります。

そして、五反田オフィスでの成功体験を踏まえ、オフィスのコアとして中央には15メートルものカフェカウンターがある。

今回も広大な芝生スペースは作りました。芝生スペースも、最初は「お客さまに靴を脱がせるってどうなの?」みたいな意見はあったけど、結果的に仕事モードから抜け出すことができて、グッと心理的な距離を縮められるような効果がありましたね。

それと、「Mock」という木やウレタンの箱と板からなるシンプルなモジュールをオリジナルで大量に制作しました。このMockを組み合わせることで、簡易的にテーブルスペースを作ったり、箱に座ったりできます。つまり、使う人がレゴで遊ぶ時のような自由な発想でファシリティのプロトタイプを考えることができるんですよ。

―7月初旬にオープンすると言いつつ、これから検証してみて、変わっていく部分もあるのでしょうね。

そうですね。よく、「会社が20〜30人になったらこうすべきだ」と定説のように言われるのが、僕らは好みではないし、正しいとも思わないんですよ。

例えば、「オフィスがこのくらいの広さになったから、インプットのために読書コーナーを作ります」みたいなのも同じことで、みんながやっているから、一般的にはこうだからというわかりやすい環境を設えてしまうと、人や組織、文化における個性やユニークな強さが生み出されにくくなるのではないかと思うんです。

与えられることに慣れてしまったら、そこで思考停止してしまう。僕らは社員一人ひとりの想像力を信じていて、誰かが、たとえその人が経営陣ではなかったとしても、真剣に考えたアイデアが事業や会社を変えうることは当然あり得ると思っています。

―ある種、シリコンバレーの「なんでもあるオフィス」とは真逆かもしれません。

まぁ、必要最小限のものしか用意しなかったことで、施工にかかる初期投資はグッと抑えられましたけどね(笑)。そのぶん、天井や床材、椅子やデスクなどベースとなるものには徹底的にこだわっています。

確かに、グーグルの本社に無料の食堂があったり、昼寝ができたりするというのは、素晴らしいことだとは思うんです。だけど、そこには必ずそれに至るまでの「コンテクスト」があり、そういう設備や施策はあくまで「What」や「How」であるはず。既になんらかの形で表れたもの自体に価値があるわけではなく、なぜそれをそういう表現で実装したのか、というところに第三者から見た価値があると思うんです。

このオフィスは確かに象徴的なものではあるけど、これからどんなオフィスを作っていくのかは、一人ひとりの気づきをもとに、それぞれが責任を持って推進していきます。

―社員に限らず、オフィスへ来られたお客さまにも刺激になるといいですよね。

僕らのプロダクト自体、「お客さまの痛みを解決する」というより、本来、マーケティング担当者が「こんなことがしたい」と思っていても、その手立てや材料がなくてできないでいることを、クリアにする、という目的がある。だから、このオフィスを訪れて、なんらかの時間を一緒に持つことで、何か新たなアイデアが生まれるような機会になるといいですよね。そしてお客さま自身が、自分の会社も、仕事もさらに好きになるといいですね。それはきっと実現可能だと思います。

―これからこのオフィスをどんな場にしていきたいですか。

本当に僕らみたいなスタートアップがGINZA SIXに入るのは、身分不相応に感じられるかもしれないけど、今はただ、「この最高の環境を使い倒してやろう」という気概を持っています。

そもそも、僕らの事業は、ゼロイチベースで、これまでなかった市場を設定し、開拓しています。だから、自分たちの圧倒的な成長につながるハードルを、自分たち自身で課し続けていかなければならないんです。今回のオフィス移転は、まさにその一つ。まだガラガラですが、この場所で圧倒的な熱量を生み出し、それをサービスに込めていけたらいいなと思っています。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之(Livit)[写真]杉浦正範
※この記事はプレイドのホームページに同日掲載したインタビューを転載しています。

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