“内製化”こそ企業変革の要。顧客の視点に立って事業創出に伴走するPLAID AccelとPLAID Unisonの展望
プレイドの事業開発組織「STUDIO ZERO」は、「データであらゆる産業を振興する」をミッションに掲げ、企業や自治体とともに顧客視点に立った事業づくり、価値創出に取り組んできました。
2022年1月には、DXを担う人材を育てるプログラム「PLAID Chime(プレイド チャイム)」を始動し、企業や産業の変革に欠かせない“人”へのアプローチを拡充。2022年9月には、新規事業開発に伴走する「PLAID Accel(プレイド アクセル)」、既存事業の変革を支援する「PLAID Unison(プレイド ユニゾン)」を提供開始しました。
3つのプログラムを通して、人材開発から事業創出、顧客価値の創造まで、より良い顧客体験(CX)のためのDXを包括的に推進していくSTUDIO ZERO。
その現在地や手応え、新たなプログラムの狙いと展望について、STUDIO ZERO事業責任者の仁科奏、PLAID Accel責任者の藤井厚、PLAID Unison責任者の濵﨑豊に聞きました。
顧客視点に立ってDXを推進する人と組織を増やす
——はじめに、「STUDIO ZERO」とは、どのような取り組みか教えてください。
仁科:プレイドでは「データによって人の価値を最大化する」をミッションに掲げ、企業がデータとテクノロジーで顧客一人ひとりを理解し、人の創造力を発揮して新たな価値を生み出すこと、企業の先にいる顧客の体験をより良くすることを目指しています。
そのために、CXプラットフォーム「KARTE」を提供し、マーケティングやカスタマーサポートなどの企業活動において、顧客データを活用し、より良い体験を実現できるよう支援してきました。
こうした取り組みに手応えを感じている一方、企業が顧客視点に立って、事業や組織のあり方を抜本的に描き直していくには、プロダクトを提供する以外のアプローチも必要だと考えていました。顧客戦略から体験設計、組織のカルチャーや人材開発、事業づくりなど、幅広い領域において変革が必要になる。
それらを推進し、ミッションをより早く達成するための取り組みがSTUDIO ZEROです。「データによって人の価値を最大化する」を達成するための加速装置と捉えています。
——STUDIO ZEROの目指す「変革」とは、どのようなものでしょうか。
仁科:今、さまざまな産業や企業でDXの必要性が叫ばれています。そのなかでプレイドの起こしたい変革とは、企業がデータから顧客を理解し、顧客視点を持ちながらアイデアを着想し、事業やサービスを生み出し、磨いていけるようにすること。つまり、人や組織が顧客中心に考えられるようにすることです。
たとえば、STUDIO ZEROが新規事業開発を支援した案件では、事業の企画段階から顧客の声を聞くために、ヒアリングの設計から実施まで伴走しました。日頃からユーザーヒアリングを行っている企業であれば、当たり前のことかもしれません。ですが、業界の伝統やビジネス上の慣習によって、顧客の体験から事業を発想すること、顧客の声を聞くことの優先度を上げられていなかった企業は少なくありません。
もちろん、企業の方々も社会や市場の変化を感じ取り、もっと顧客に目を向ける必要があると、制約のなかで変わっていこうと試行錯誤されています。とはいえ、なかなか変革を担う人材の量や質が足りていない現状もある。
そうした状況に対し、STUDIO ZEROは人や組織の変革(Employee Experience, EX)はもちろん、事業の変革(Business Transformation, BX)や顧客体験の変革(CX)まで、幅広く支援していきたいと考えています。そのために1年間、複数のプログラムを検討、拡充してきました。
—— 2022年1月に始動した「PLAID Chime」は変革に欠かせない“人”にアプローチするプログラムですよね。どのような取り組みか詳しく伺えますか。
仁科:PLAID Chimeは、CXのためのDXを担う人や組織を育てるための人材開発プログラムです。現在は、企業の課題や状況に合わせて「直接的な人材開発」あるいは「間接的な人材開発」を行っています。
直接的な人材開発では、クライアント企業の社員の方に留学ならぬ“留職”という形で、数ヶ月間プレイドで働きながら、学びを得てもらいます。
たとえば、ある大手鉄道会社で街づくり事業をリードする方には、3ヶ月間、STUDIO ZEROの一員としてミーティングに出席して議論に参加したり、プロジェクトのオーナーを担ってもらったりしました。あるいは、ピジョン株式会社のサステナビリティ推進室の方には、STUDIO ZEROの業務に加え、プレイドのサステナビリティに関する情報開示の取り組みも牽引してもらいました。
間接的な人材開発では、CXやDXのベースとなる知識や考え方を学ぶワークショップを提供しています。一般的なDXにまつわる研修では、プログラミングなどの具体的なスキルを学ぶものが多いですが、私たちは土台となる考え方やマインドが重要だと考え、プログラムを設計しています。
いずれの取り組みでも、クライアント企業からは「継続したい」と好評いただいています。
——“留職”された方からは、どのような反応がありますか。
仁科:クライアント企業では、顧客の体験価値を高めようとする企業や自治体との実際の商談がそもそも少ないそうで、貴重な機会を得られていると好評ですね。
プレイドのカルチャーが刺激になったと言ってもらえることも多いです。とくに性善説を大切にし、個人の自由と責任を重んじている点。社員一人ひとりに選択のための余白を持たせつつ、やり切るためのコミットメントはしっかり求める。「こんなカルチャーの企業が日本にあるのですね」と驚く人もいました。
最近では、社内のカルチャーづくりにまつわる取り組みもできないかと相談をもらっており、より広く組織づくりに関わっていく展開も見据えています。
新規事業立ち上げの壁を共に越えながら、事業と人を育てる
——では、新たに提供開始したPLAID Accelは、どのような取り組みでしょうか?
藤井:PLAID Accel(以下、Accel)は、企業の新規事業の立ち上げを伴走支援するプログラムです。先ほど仁科が説明した通り、私たちは、より多くの企業が顧客視点を持って、新たなアイデアを発想し、事業やサービスを生み出せるようにしたい。そのためには、人や組織の育成だけでなく、事業づくりそのものにもアプローチする必要があると考えています。
Accelの支援内容は、事業構想からMVP(Minimum Viable Product:必要最小限の価値を提供できるプロダクト)開発、事業性・収益性の検証など多岐にわたります。ジョイントベンチャーの設立など、プレイドも事業主体としてコミットし、クライアント企業と共に事業を創っていく場合もあります。
すでに西武ホールディングスでの新規事業創出の伴走支援、JTBの新規事業創出プログラムの事務局運営などの案件が進行中です。
——具体的にどのような“伴走支援”を行うのでしょうか。
藤井:前提として、近年は既存事業の成長に限界を感じ、新規事業創出に力を入れている企業が増えています。一方、多くの企業では、事業立ち上げの経験者が少なく、経験とノウハウが足りていない。かといって外部からの採用も簡単ではありません。
そうした悩みを抱える企業に対し、AccelではDXやCX領域における事業立ち上げの知見を提供および共有するだけではなく、私たち自身がプロジェクトの一員として共に手を動かします。立ち上げのプロセスを一緒に経験することで、暗黙知も含むノウハウをクライアント企業に伝達し、事業を生み出す人を育てていきたい。
また、クライアント企業の皆さんの熱量を引き出したいとも考えています。新規事業創出には越えるべき壁がいくつも現れますから、担い手に動機や熱量がないと成功は難しい。半歩先に立って知見やノウハウをシェアしつつも、私たちが回答を与えるのではなく、クライアント企業の皆さんの熱量を高め、壁を越えられるよう導いていきたいと考えています。
まだ試行錯誤中ですが、進行中の案件のなかで少しずつ手応えを得られています。たとえば、とあるクライアント企業とは、基本的にオンラインでミーティングを行っており、対面でお会いしたことは一度しかありませんでした。
ですが、サービスの詳細を具体化していくフェーズに入り、先方から『リモートでやり取りするよりは合宿などを開き、膝を突き合わせて検討したほうが、いいものができるのでは』と提案があったんです。自主的に企画が立ち上がったことに熱量の高まりを感じました。
現場でエンドユーザーを知り、既存事業の変革を促す
——PLAID Unisonは、どのような取り組みでしょうか。
濵﨑:PLAID Unison(以下、Unison)は企業や産業全体が、顧客中心の経営を実現するために、CXを起点とした企業の事業変革を伴走支援するプログラムです。
顧客戦略立案からその実現に向けた変革ロードマップの策定、伴走支援を通じての成果創出や継続的なCX改善のための組織開発・内製化推進などを担います。
東京建物のビル開発事業における顧客戦略立案やサービスデザインの支援、損害保険ジャパンの代理店事業における顧客理解に基づくコミュニケーション戦略立案からその実行、JTBパブリッシングにおける顧客提供価値の最大化を目的としたメディアサービス企画などの支援に携わっています。
多くの伝統的な大企業では、歴史的に確立された強固なビジネスモデルやオペレーション体制によって顧客接点・顧客体験が分断されている。組織構造ゆえにCX向上の取り組みがスピーディーに進めきれていません。そうした課題を抱える企業において変革の”推進剤”になりたいと考えています。
Accelと同様、事業支援のプログラムではありますが、新規事業と既存事業では変革に必要な時間軸や巻き込むステークホルダーの範囲や種類なども異なるケースが多い。それぞれに適したアプローチに特化した支援を行っていくためにもAccelとは役割を明確に分けた形です。
——Unisonの特徴を教えてください。
濵﨑:事業変革の場合、一般的にはコンサルティング会社に委任することが多いかと思います。それに比べて私たちは、クライアント企業の社員と一体となって、協働・共創しながら取り組むスタンスを大事にしています。
私たち自らその企業の顧客接点に直接触れ、エンドユーザーについて深く理解したうえで、どのような価値を提供すべきか、価値を実現するために必要なサービスやオペレーション、組織体制を描き、実現するところまで二人三脚で取り組みます。何よりも、優れた顧客体験の実現を通じて事業のトップラインを伸ばしていくことに尽力していますし、クライアント社員と共に体験を積むことを意識しています。
とある大手保険会社の案件では、クライアント上層部から「外の目線で変革をリードしてほしい」というオーダーを頂き、STUDIO ZEROのメンバーが出向・常駐することで、名実ともに一体となって事業のトップライン向上や、客観的な観点を活かした組織変革に伴走しています。ありがたいことに「プレイドさんが入ってくれたおかげで組織の雰囲気が変わった。これまで気づいていなかった組織ルールの非効率さに気づけた」などのお言葉を頂いています。“内部者でありながら外部者”の立場で関わるからこその気づきを提供できているのではと思います。
——他にもUnisonの特徴を体現する支援事例があれば教えてください。
東京建物の支援は、私たちの顧客視点にこだわるスタンスが力を発揮できているケースと言えます。曰く「極論すればこれまでのディベロッパービジネスは、ビルを建てれば売れた」。だから建てた後の運営への意識は希薄になりがちだったようです。
しかし、ポストコロナの今、場所に縛られないハイブリッドワークが日常化し、オフィス需要も低下傾向になっている。必然的に、オフィスビルに求められる価値は変わっています。「建てるまで」も大事ですが、むしろ「建てた後」のビル運営において、入居者の視点で良い体験をどのように実現させるかの方がより重要になってきています。
ですが、これまでの業界慣習もあり、彼らはCX観点でのビル開発を行うことができなかった。このような背景で、私たちにご依頼をいただきました。今もプロジェクトは進行中ですが、お客さまからは「テナント従業員の生の声やオフィスワーカーの価値観の未来予測に基づくビルのコンセプトや機能の提言は、社内で非常に好評。他のビル開発プロジェクトや役員層にも共有したい」という言葉を頂きました。正直、これまでの私たちからすると特別なことは行っていないのですが、それだけ伝統的大企業にとってCXを重視したアプローチは稀有な取り組みだったのだと思います。
いずれのケースにおいても、私たちが考える最終的なゴールは、クライアント企業内部の人間だけで顧客起点の事業変革が進められる状態と構造をつくることだと考えています。委託された仕事をこなす、知見やノウハウを提供するだけの役割ではなく、伴走者・共創者として共に事業変革を推進していく中で、CXを起点とした事業変革・運営のナレッジや経験を蓄積してもらいたいと考えています。
変革のための“仕組み”を残す、STUDIO ZEROの目指すゴール
——いずれの取り組みも、新規事業の立ち上げや既存事業の変革をクライアント企業が行えるようにすること。自走するための内製化を推進していくのですね。
仁科:まさに、私たちが去った後に仕組みそのものが残る状態をつくりたいと考えています。
新規事業の創出や既存事業の変革を起こし続けるために、どのような仕組みがあればいいのかは、組織によって当然異なります。ですから、私たちは外部の知見やノウハウを持つ専門家としてだけではなく、同じ釜の飯を食う仲間としてもクライアント企業に関わり、手を動かしていく。“内部者かつ外部者”として組織を観察し、その状況や目指すあり方を踏まえて最適な仕組みを残していきたいです。
濵﨑:私たちは「いかに早く卒業していただくか」を大切に、クライアント企業と関わっています。長く外注してもらうより、社内でできる状態にもっていく。内製化に対する本気度は両プログラムに共通する特徴だと捉えています。おこがましい言い方ではありますが、お客さま側にも腹をくくって取り組んで頂く必要があると思っています。
また個人的にも、内製化を科学できないか、より方法論的に内製化を進めていくことができないかというテーマを探究したいという思いも持っています。Unisonでの実践を通して「こうすれば内製化が効果的・効率的に進む」という型を考え続けていきたいと思います。
大げさですが、この取り組みが日本企業の競争力向上の一助になればと考えています。デジタル/IT領域を中心に、日本企業は海外企業に比べて外部委託率が高いことは知られていますが、CX視点/テクノロジー視点で事業変革に取り組める人材が企業内に集まる構造ができれば、事業成長のスピードも質も圧倒的に高まると信じています。
——AccelとUnisonが始まり、STUDIO ZEROはどう進化しますか?
濵﨑:冒頭に仁科がお話した通り、企業が顧客視点に立って、事業や組織のあり方を抜本的に描き直していくには、顧客戦略から体験設計、組織のカルチャーや人材開発、事業づくりなど複数の領域での変革が必要になります。
EXを担うChimeに、BXを担うAccel、CXを担うUnisonが加わったことで、より包括的な支援が可能になったと捉えています。顧客の体験をより良いものにするというゴールは変わりませんが、企業の状況に合わせて、色々な山の登り方ができるようになりました。
ただ、便宜的にサービス名は分けているものの、STUDIO ZEROやプレイドのメンバーとは、積極的に連携しています。プレイドには、さまざまな個性やプロフェッショナルを持つメンバーが揃っていて、気軽に知見やアイデアを共有し合っていますから。クライアント企業の状況や課題に合わせて柔軟かつスピード感を持って動いていきます。
構造的に“身軽”なプレイドだからこそできる柔軟な支援
——他部門のプレイド社員と協力し、クライアント企業の課題に対応した例はありますか?
濵﨑:とある企業で、顧客とのコミュニケーション、特にZ世代をターゲットとした施策を見直したいという依頼がありまして。かつてスタートアップのCMOを務めていたプレイド社員にZ世代向けのコミュニケーション戦略についてアドバイスをもらいました。また、具体的な施策を考えていく段階ではKARTEの企画開発を担うチームとも議論を重ねました。
当社ではコラボレーションツールとしてSlackを活用していますが、チャンネルに投稿すると、経営やエンジニアリング、UXデザイン、オフラインも含む体験設計、マーケティングなど、各分野のプロフェッショナルが惜しみなく手を貸してくれる。組織の壁を感じないのはプレイドの強みだと思います。
仁科:いわゆる縦割り組織ではないし、各チームが担当するプロダクトやソリューションの売り上げを競い合っているわけでもない。プレイドは、チームを越えてコラボレーションしながら価値を生み出してきた組織です。カルチャー面だけではなく組織構造面での身軽さも、私たちの強みだと捉えています。
——その他に、プレイドやSTUDIO ZEROの強みはありますか?
濵﨑:「データによって人の価値を最大化する」というミッションを掲げ、人間とテクノロジー、あるいはプロダクトの掛け合わせによって価値を生み出してきたことも、大きな強みになっていると思っています。
優れた顧客体験によって多くの人を惹きつけている国内外のサービスを眺めてみると、どれもテクノロジーやデータの力と、人間の創造性や発想を最大限に活かしている。顧客に選ばれ続けるには、その両方が欠かせないと思っています。
プレイドはCX領域に深い知見を持ちつつ、理想として描いた顧客体験像をオペレーションや仕組みに落とし込むテクノロジーも育ててきました。その蓄積と実装力は、他社にはない強みではないかと思っています。
——最後に、STUDIO ZEROの展望を教えてください。
仁科:「データであらゆる産業を振興する」の達成に向けて、スタートラインが0だとしたら0.1か0.2くらいの段階。Chimeに加え、AccelやUnisonを展開することで、ようやく0から1に進める認識です。
生活者視点で、産業や企業の負を解決するホームラン級の事業を生み出す機会も自らも探りつつ、まずは今向き合っているクライアント企業の方々とともに、新たな事業や価値を創っていきたい。立ち上げから1年でそのための布石は打てたと思っているので、ここから着実に成果を積み重ねていきたいです。