世界で通用するプロダクトを作るには“尖った発想”が不可欠——プレイドが「プロダクトアウト」を大事にする理由
2015年3月にウェブ接客プラットフォームとして世に送り出された「KARTE」。現在はCX(顧客体験)プラットフォームへと進化し、日々様々なアップグレードが施されています。
そんなKARTEですが、初期からエンジニアの自由な発想による「プロダクトアウト」の精神によって支えられてきました。リリースから約3年半が経った今でも、その基本的な思想は変わっていません。
なぜプレイドはプロダクトアウトを重要視しているのか。根本にはどのような考え方があるのか。今回はKARTE正式リリース前の2015年1月からプレイドに在籍する、エンジニアの牧野に話を聞きました。
【牧野 祐己】プレイド エンジニア
東京大学工学系研究科で修士課程卒業。2009年から2014年まで、IBMソフトウェア開発研究所で研究開発業務に従事。2015年にプレイドに参画し、データ分析エンジンの研究開発を担当。
プロダクトアウトで始まったKARTE
ーー まずはKARTEの成り立ちから教えてください
牧野:僕たちがKARTEをウェブ接客プラットフォームという形でリリースした当時は、そもそも“ウェブ接客”というワード自体がなかったんですね。だから「すでに存在するマーケットに合わせてプロダクトを作っていく」発想ではなく、「マーケット自体を作る」という考え方に近かった。使って欲しい顧客の課題をある程度は認識しつつも、そこにテクノロジーを絡めることで何ができるのか、自分たちで考えながら作ってきたプロダクトです。
もともと楽天にいたCEOの倉橋と、機械学習やデータ分析のバックグラウンドがあったCTOの柴山という2人の創業者の考えや体験がベースにあって。それらを融合させると顧客の課題を解くアイデアにテクノロジーが合わさり、広がっていくのではないかという発想からスタートしています。
そんな背景があるので「◯◯という機能が欲しい」という要望が明確に見えているわけではなく、エンジニアが必要そうなファンクションを想像しながら作っていて。まずはすぐにリリースしてみるんですよ。最初はお客さんの数も少ないから、返ってきたフィードバックを参考にしながらも「本当はこんな機能があればもっと使いやすいんじゃないか」と勝手にイメージを膨らませて。とにかく作っては出してみるの繰り返しでした。
ーー 作ったら、まずはすぐに出してみる。それが大事なんですね
牧野:そこは初期から重要視というか、意図的に社内で推奨していたポイントです。会社としても、どんどん新しいものを出して今よりもっと良いものを提供することでお客さんにも満足してもらいたい、というスタンスで。頻繁に機能が増えたりすると短期的には抵抗を感じられるかもしれないですが、少し長い目で見ると、より良いプロダクトである方がお客さんにも価値を届けられますよね。
特に初期は、思いついた機能を社内でずっと揉んでいくというよりも、まずは出して反応を確かめてみようと。それらはKARTEの価値を高めるファンクションのタネにもなるので眠らせておくのはもったいないですから。
ーー そのようなカルチャーの根本には、どんな考え方があるんでしょうか?
牧野:僕個人としては、最初の視座が大きく影響していると思っています。そもそも「ものすごくインパクトがある、世界に出ていけるようなプロダクトを作りたい」という目標で始まったプロダクトであり、そういう想いを持ったメンバーがプレイドに集まってきていて。
初期に比べたらプロダクトもアップデートされていますが、それでも目標からするとまだまだ未完成なんですよ。
だから「こいつを完成させなきゃならない」という感覚でいると、どう考えてももっとスピードをあげて、改善を重ねながら新しいものを作っていかないといけない。別にプロダクトアウトが絶対に良いという考え方ではなくて、自分たちが目指しているプロダクトを実現するためには“そういうスタンスにならざるを得ない”という感覚に近いかもしれません。
ーー 牧野さん自身も入社後すぐに、「担当する範囲のコードを大幅に書き換える」という大胆なことをされたそうですね
牧野:リリースを直前に控えた頃に、もともとCoffeeScriptで書かれていた解析エンジンをTypeScriptという新しい言語へ置き換えてみました。もちろん書くことに自信はあったし、それによってもっと良くなるという仮説もあって。同時に自分で書いてみることでプロダクトへの理解もより深まるだろうと(笑)。
結果的に、この時の体験が今の自分自身にとってはもちろん、現在のプレイドの体制とかプロダクトの作り方にも活きていると思うんです。要はとにかくエンジニアが自分で考えたことを自由にやってみる。一旦ガーッとやって、プロダクトとしてリリースして、直していくみたいな形で。
このプロセスが重いと、やろうと思い立ったことが実際のアウトプットに繋がるまでにすごく時間がかかってしまいます。僕自身、前職では大きな組織にいたので、作り始めてから最終リリースするのに1年くらいかかったこともありました。出したものに対して修正をかけていくとなると、そこからさらに1〜2ヶ月かかったり。
一方でプレイドに入ってからは「これやってみようかな」と思ったことが、ものすごい短期間で終わるんです。少なくともスタートアップにおいてはこの「スピード感」が大事だと考えていますし、これが1つの武器にもなる。僕自身もこのスピード感が肌に合っていて、パフォーマンスも以前の10倍くらいは出せてる感覚があります。
特に僕たちはSaaSの会社なので、既存のお客さんに満足してもらいつつも、どんどん増えていく新しいお客さんにも継続して良いサービスを提供していく必要があって。そのためには日々進んでいく技術をしっかりと取り入れ、最新のものを届けたいんですよ。それは既存のお客さんに変化を感じてもらえることにも繋がりますから。
普通にやっていては、自分たちが目指す所には届かない
ーー 牧野さんがジョインされた時に比べると、今では組織もプロダクトもかなり拡大してきましたよね。社内のカルチャーやプロダクトの作り方にも変化があったのでは?
牧野:コアとなる考え方は今も変わっていませんが、たとえば開発体制に関しては以下の3つのチームに分かれてプロジェクトを進めるようになりました。
【1】クライアントのニーズから機能改修をするチーム
【2】現状のプロダクトの数字をもとに機能改善をするマーケット・イン開発のチーム
【3】ディスカッションから出てきた機能を開発するプロダクト・アウト開発のチーム
【1】ができた背景としては、KARTEのお客さんが増える中で、お客さんの要望やニーズをもとに一緒に機能を作っていけば「プロダクトアウトとはまた別の発想のものができるのではないか」と考えたからです。
僕ら側だけでは考えきれないというか、カバーできない部分があるというイメージですかね。実際にいくつかのお客さんの声を集約してみると、結構同じところに課題を感じていたり、僕たちが全然知らないマーケターならではの意見が出てきたり。そこを意図的にターゲットとして、その人たちにフィットさせていくようなやり方も面白いなと思って機能改修をするチームを作ったりしています。
ーー 人数比でいくとプロダクトアウト開発のチームが1番多いですよね?
牧野: 人数だと5 : 5 : 20くらいで、プロダクトアウト開発のチームが最も多いですね。そこはやっぱり視座の話で、自分たちが目指しているプロダクトに今のままでは届かないとみんなが感じているので。そのためにはある意味「変な発想」というか、今の延長線上にはない違った角度からの発想を大切にしたいなと。
たとえばサイトを訪れたユーザーの行動を実際に動画で見ることによって、新たな発見を得られる「KARTE Live」という機能がありまして。これはKARTEの中でも主要な機能の1つになっているのですが、実はある社員が冬休みの間に作ってきたのがきっかけなんです。
最初は気軽な発想で生まれたものが、ブラッシュアップされてお客さんに提供されるプロダクトになっていくという例が結構多くて。それこそ今あるプロダクトも、大きな機能のほとんどがエンジニアの発想がベースとなってできたものです。
もちろん最初に大枠の要望があるケースもありますが、それだけじゃあ面白みにかけるというか、普通のものを出すくらいなら止めておいた方が良いという考えがありまして。だから先に計画があるという感じではなくて、出てきた発想をベースに進めていくスタイルですね。
能動的に関わることでプロダクトが“自分のもの”になる
ーー 牧野さん自身が考えるプロダクトアウトで開発を進める際の魅力とはどこでしょう?
牧野: プロダクトアウトでものを作る時って、自分の感性がすごく重要なんですね。ある種、基準がほとんどない状態でものを作っていくことになるので、自分が感じる課題や面白いと思ったアイデアなど「自分がどう思うか」が指針になります。
魅力だと感じるのは、その自発的にものを作れる面白さと、作ったものに対するフィードバックへの緊張感みたいなものですかね。プロダクトに能動的に関わっていると、自分が作っていない機能も含めてトータルでプロダクトを見た時にどう思うかがすごく気になるんですよ。本当にプロダクトが「自分のもの」のように思えてくるというか。
だから各メンバーが作った機能に対してもお互いがフィードバックしあったり、何か困ったことがあった際に相談に乗ったり、助け合ったりというのが自然と発生しやすいのは良いことだなと思います。
その観点では、プレイドではメンバーをチームに固定せず、コロコロ変えるようにしていて。短期的に各々が担当するファンクションはありますが、ずっと同じものを割り当てない。これもプロダクト全体を自分のものと考える上では、大事なポイントですね。
ーー 個々の発想を大事にするという点では個人に依存する部分もありそうですが、その辺りはいかがですか?
牧野: 面白い発想が生まれる背景には個々のバックグラウンドや考え方、ポテンシャルも大きく影響していると思うので、その点では個人に依存する部分もあるとは思います。一方で「各々のパフォーマンスを最大化する」ためには、どういうチーム構成であるべきか、どんな環境であるべきかを模索することも大事なんですよね。
なので、「個人依存、かつその個人依存を最大化するような仕組みを作っていくこと」をプレイドとしても大切にしています。個人のパフォーマンスを高めるのはもちろん、それを邪魔しないルールや体制を作ることとか。
ーー 最後に牧野さんが今後やりたいこと、もしくは企んでいることを教えてください
牧野: プロダクトアウトと矛盾すると感じられるかもしれませんが(笑)、もう少しビジネスの視点からプロダクトを作ってみると、面白いものができるんじゃないかなと最近感じているんです。
お客さんの数も前に比べるとかなり増えてきていて、同様にそこから僕たちが得られるものも多くなってきました。それを鵜呑みにするわけではないけれど、もっと有効活用できるんじゃないかなと。
お話してきた通り、プロダクトアウトだけにこだわっているわけではないし、プロダクトアウトでやることが目的ではないので。最初に倉橋と柴山がそれぞれの経験を持ち寄ったように、ビジネスマインドとテクノロジーを上手く融合することで、普通じゃないものができあがるような気がしていて。
そういう意味で各チームの連携をより深めていくとか、個々のエンジニアがお客さんやCSメンバーと対話する機会を設けるとか、そういったことを意図的にやっていきたいなと思っています。