フルスタックエンジニアから事業責任者へ。プレイドに新卒入社して生じた、目指すエンジニア像の変化
大阪大学在学中にプレイドのインターンに参加し、大阪大学を中退してプレイドに入社して約3年、サイト内外の体験をつなぐMA(マーケティングオートメーション)ツール「KARTE Message」の開発責任者を経て、2023年11月から事業責任者も務める山本 哲生。プレイドに入社してこれまでどのような経験をしてきたのか、その中で生じた変化の軌跡を伺いました。
技術と事業、両方に惹かれて
──プレイドに入社したきっかけは?
2018年に参加したGoogle Cloudの旗艦イベント「Google Cloud Next」でプレイドを知り、インターンに参加したことがきっかけです。「KARTE」を調べてみると、いろいろと面白いと感じる部分が多かったんですよね。クラウド周りの技術にも関心があったことに加え、事業内容にも関心を持ちインターンに申し込みました。このあたりの話やインターン中に取り組んだことなどは、別の記事でお話ししているので、よければそちらをご覧ください。
──インターンを経て、入社を決めた理由は?
まず、インターンであっても裁量を持って仕事をさせてもらえる環境が魅力的でした。メンターからは社員と同じようにタスクを渡してもらい、わからないことがあれば聞いて認識合わせをしながら仕事を進めていました。試してみたい技術を見つけたときなどは、小さな変更であれば自分で判断して変更することもできました。
インターンを経て、社員として入社したいと思った理由は大きく二つです。
一つは、何より「データによって人の価値を最大化する」というミッションに強く共感したことです。もともとは人の人生の価値を高める転換点、例えば就職や転職、学校選び含む教育や人材関係などの領域に興味があったのですが、ふと「人の価値とは?」と考えたことがありました。客観的なデータを活かすことができれば、転換点で正しい選択ができるようになったり、周囲から正しい評価を受けられたり、価値を高める最適化ができる。インターン期間で得た情報や会話の中で、プレイドと自分のやりたいことが同期できました。
もう一つは、エンジニアを入り口に起業のための経験が積めると確信できたことです。将来的に起業したいと思っているのですが、ファーストキャリアとしてはエンジニアからスタートするということを決めていました。エンジニアであっても事業観点をしっかり考えながらプロダクトをつくれる、新規事業の立ち上げが活発で自分自身の経験として0→1の機会に関われる、制約少なく裁量を持って動けて能動的な失敗であれば許容される。こういった自分の求める環境・文化があることをインターンを通じて確証できました。
起業したいという想いをCPOの柴山にも話したら、「プレイドには事業づくりに挑戦するチャンスもあるし、事業を成長させてくれる人を求めているから、いいと思う」と言ってもらえて。その言葉にも背中を押されました。
難度の高い課題こそ燃える
──入社して最初の仕事として何に取り組みましたか?
社内で開発を進めていた「Pintoss」というデザインフィードバックツールの開発を引き継ぎました。
Pintossは、Chromeの拡張機能として入れるとサイト上の要素を指定して直感的にコメントできるツールです。さらにSlackを連携させておくと、Slackのチャンネルで要素に対するコメントごとにスレッドがつくられ、Slack上からもコメントができ、サイト上とSlackでシームレスなフィードバックができるというものでした。
核となる機能の開発はできていたので、コメント機能がうまく動かないバグの修正やデプロイ環境の整備などの作業を一人で担当しました。社内リリースまでやりきれたのはよかったのですが、なかなか利用してもらえず、クローズになりました。自分自身、プロダクトに関してユースケースを想定したり、機能の拡張の方向性を考えることができず、言われた通りに開発はしたけど使われずクローズする結果になり、かなり悔しかったです。
この悔しさをバネに次に、何に取り組もうかと考えていたところ、現在も関わっているKARTE版MAツール「KARTE Message」の元となる配信基盤の開発に携わることになりました。「これ興味ある?」と声をかけてもらって、「ぜひやりたい」と。
声をかけてくれた理由は後から聞いたのですが、以前から私が「低レイヤー技術を扱う仕事がやりたい」と度々言ってたのを覚えていてくれて、そこを伸ばそうと思ってくれていたそうです。特に、コミットメントの強さや意欲の高さを評価してくれていたようで、技術についてもキャッチアップしながら進められると思って任せてくれたそうです。普段の振る舞いや意欲を見てくれていれて、それが機会につながるのは、プレイドで働いていてやりがいを感じる一つのポイントですね。
──配信基盤の開発はどのように着手していったのでしょうか。
配信基盤の開発を進めることにはなっていましたが、当時はまだ構想段階でした。プレイドとしてはこれまでにも、同じような配信基盤の開発には何度か挑戦してきていましたが、いくつか課題があり要件を満たせるものが作れていない状態でした。
そのため最初は、それらの課題を解決するためのアイデアが盛り込まれた簡易的なアーキテクチャ案を渡されました。この案は「使用するデータベースはこれ、配信の重複排除はここでやるくらい」のシンプルなもの。それを元に、大量配信基盤を構築する必要があり、目的に対してどんな技術を採用するべきかから考えるのが私の役割でした。
正直、それまではフロントエンドの開発が中心でバックエンドやインフラの開発経験は少なく、プレッシャーもありました。一方で「こんな難易度の高そうな開発を自分がやっていいんだ」と、気持ちの高ぶりもありました。
──開発はどうやって進めていきましたか?
KARTE Messageの配信基盤開発は将来的には数百社、数千社の配信を捌ける基盤にしていく必要がありました。そのためスケーラビリティやパフォーマンス、耐障害性、セキュリティ、個社の要件を吸収できる汎用的な設計など、複数の観点をカバーした分散システムの開発が必要でした。このような規模や要件の分散システムの開発を経験している人の絶対数が少ないですし、検索しても確実に正しい答えは出てきません。その答えのない課題に対して、どんな技術を採用するか、どう作っていくのかを考えるのは難しかったですね。
技術選定では、一般的なアーキテクチャの勉強から始まり、使用できそうな技術を一つひとつドキュメントを読んで触って理解を深めたり、技術的な特性、クラウドを使う場合はそのレート制限を調べたり、情報をインプットしつつ、一歩ずつ進めていきました。実際いろいろと調べると、クラウドを使えば簡単に要件は実現できるがコストが合わなかったり、パフォーマンスやスケーラビリティが足りなかったり、悩んだ点はかなり多かったです。この技術選定を通じて、「既存のものを組み合わせて、どううまくコスパ良くシステムを作るか」という視点と「自分たちの要件に合うものをゼロから作って、技術的な資産を築いていく」視点の両方が鍛えられたと感じています。
技術選定後は、プロダクションのコードをすぐには書かず、最終的に実現したいことに対して、どこにどの役割を持たせるのかを整理し、さらに詳細なアーキテクチャを考えました。そして、それを構成する個々のマイクロサービスの要件を実現する小さなコードを書いて検証をしていきました。
実際に開発を進める際には、ある程度技術的な検証は済んでいたので、CI/CDをしっかり組んでテストを書きつつ、MVP(Minimum Viable Product)を意識して、段階的に作っていきました。開発を進めながら発生した問題に応じて単体テストやE2Eテストを拡張したり、攻めも守りも意識しながら開発を進めました。
──かなり難易度が高そうですが、スムーズに進められたのでしょうか?
たしかにスムーズに進むことばかりではありませんでした。しかし、社内でいつでもCPOやCTO、VPoEに相談できる環境だったので、定期的に壁打ち、時にはチームに入ってもらってアドバイスをしてもらっていました。この中で、開発に限らず、チーム運営や、タスク管理、ロードマップの考え方などいろいろなことを学ばせてもらいました。基本的には自走させてもらいながら、必要に応じていつでもフラットにコミュニケーションができ、率直かつ的確なフィードバックをもらえるいい環境でした。
プロジェクトを進める中で徐々にメンバーも増えていき、最終的にはインターンも含めて6名ほどで開発を進めていき、2022年11月にKARTE Messageのβ版をリリースすることができました。
他にもいろいろと得られたものはあるのですが、リリースに至るまでの中で特に印象に残っているのは、「事業的に価値のあるコードを書こう」というフィードバックです。「顧客の価値をしっかり考えてそれを短期だけでなく、長期的な機能拡張の方向性も考えた上でコードを書くこと。テストもカバレッジ100%を目指すのではなく、顧客のユースケースが満たされていることを担保する、もしくは事業のリスクを考えてそのリスクを防ぐためのテストを書く。」という考え方は今の自分の業務のベースになっています。
─プロダクト化に挑戦することで、他にも変わったことはありますか?
何より顧客のニーズ理解に向き合い、使われるプロダクトにすることへの意識を強く持つようになりました。以前の自分であれば、誰かが起案したイシューを解決することに視点が集まりがちでした。そうではなく、まずはしっかりユーザーだったり、すでにあるプロダクトを理解することに時間を正しく使えるようになったと思います。
例えば、競合プロダクトのUIや特徴を調査したり、該当する分野のユーザーとしての知見が豊富なメンバーに活用事例や発生しがちなペインポイントをヒアリングしたりを繰り返しました。その上で自分たちが作るプロダクトの芯や強みをどこに持ち、どうつくるべきかをしっかり考えるようになりました。
KARTE Messageでは、主なユーザーになることが想定されるマーケティング担当者が効果的に使えるのかを強く意識しています。UIがわかりづらいことで誤操作を招いたり無駄な時間がかかってしまったり、やりたいことをやろうとするとクエリを書くなどの工数が発生して効果的に使うハードルが高くなってしまったり、こういった壁になりそうなポイントを徹底的になくしていき、マーケターだけでも業務を完結させることを目指しました。
開発やローンチに向けた過程でも、プロトタイプを社内のメンバーに触ってみてもらったり、クローズドβ版をリリースした後にKARTEの顧客に先行活用していただいたりしながら、フィードバックをもらって改善を重ねていきました。
KARTE Messageの開発背景を語った記事も公開されているので、そちらもぜひ読んでいただけると嬉しいです。
チームとして機能する、つまずきを経て責任者としての学び
──プロダクト化を進めるなかで、難しかったことはありましたか?
プレイヤーから開発リーダー・マネージャーに役割が変わっていったことで、いろいろと意識も変わっていったのですが、今思い返しても最初の頃はかなり空回りしていました。チームとして開発を進めるのが初めてだったということもあって、チームとして成果を出すという視点に変わっていくことやそのための仕組みづくりには苦労しました。
自分はもともと、ハングリー精神を持ってアウトプットを出すことを目指し、そのために新しい技術もキャッチアップしていくぞ、という気持ちで仕事をしてきました。柔軟にいろいろなことができるフルスタックエンジニアとして、自分で全部開発できることが最良と考えていて、できる限り自分でやろうとしてしまいがちでした。
他のメンバーにも同じことを求めてしまい、コミュニケーションも自分の考えや方針ありきで接してしまっていました。ある時、CPOからも「チームの雰囲気がよくないね」と率直なフィードバックをもらって、なんとか改善しないといけないとはわかりつつ、悩んでいました。
──どうやって乗り越えたのでしょうか。
できる限り自分で把握したい、やりたいという気持ちはありながらも、規模が大きくなるとどうしても全体が見えにくくなってきますし、自分の仕事も増えます。全体感を失いたくないという気持ちと、任せないとスケールしないという葛藤がありましたが、事業成長のためには任せないといけないと考えられるようになりました。
転機になったのは、SREを専門的に経験してきた中途入社のメンバーがチームに加わったこと。当初は、その人の専門領域にもしばしば口を出していたんですが、そのメンバーに「山本さんはどんなチームにしていきたいの?どんなリーダーになりたいの?」と問われました。「ここは自分の専門性が活きる部分だから信じて任せてください」と言ってもらい、実際にいろいろな課題を解決してくれたんですよね。
これは、自分にとって「人に任せる」という成功体験になりました。自分だけでプロダクトは作れないし、ちゃんと権限委譲してチームを強くしていかないと、事業は作れないんだと気づくことができました。それ以降、人材の同質化よりも多様性や専門性を活かすことの重要さというか、周囲の人の自分より優れている部分に目が向くようになり、周囲の意識や考えを受けてチームや自分自身をアップデートする意識が強くなった。個々のスペシャリティや興味も含めた強みを活かしたほうが、プロダクトとして次のステップに行くことができるし、今後それが絶対に必要だと思えるようになりました。
意識や周囲への接し方が変わりプロダクトの改善も進むようになり、今はプロダクトとしても事業としても成長できています。まだまだ、上手くできているとは言えませんが、前進はできていると感じていますね。
チームでのプロダクトをつくり、事業のスケールに挑む
──山本さんの次の目標はなにかありますか?
実は2023年の11月から、開発だけではなく事業全体の責任者になりました。事業責任者に推薦・打診してくれたのは前任の先輩でして、開発やプロダクトへの解像度がより高い人が率いる方がさらに事業を伸ばせると感じたことが理由だと聞きました。プロダクトの性質やフェーズ的にも、保守性や安定性などを高める守りの開発の重要性がさらに高まっている背景もあります。
事業責任者としてまだまだな部分もあるかもしれませんが、先輩や周囲の期待に応えて、そして周囲の力を最大限活かしてKARTE Messageの事業を伸ばしていきたいです。まだリリースして1年弱、かなりの成長角度で事業が立ち上がってきています。今後も理想的な成長カーブを描いていけるように、事業計画やロードマップ、そしてチームの体制を作っていくことにトライしようと思っています。
「KARTEを超える事業をつくる」というのが個人的な目標なのですが、そこにはまだまだ届いていません。前進はできていますが、まだまだ目指している地点には程遠いので、これからも挑戦したいですね。
──入社前から将来は起業を考えていた山本さんが、プレイドで挑戦することに感じる魅力はなにかありますか?
KARTE Messageは、目指す事業規模は大きい一方で、スピード感を持って進められています。ですが、仮にこれを起業や別の環境で0からやろうとしていたら、もっと時間がかかっていたはずです。事業と組織の基盤やアセットがある程度できているプレイドだからこそ可能な規模とスピードを伴った挑戦の実体験を、濃い濃度で得られています。
プレイドはまだまだ挑戦を重ねていくフェーズ。今後入社される方であっても、自分から手を挙げて大きな挑戦をリードするチャンスがあるはずです。
将来的に起業を考えていて、コンサル業界なども就職の選択肢に入れている人も多いと思います。個人的に、プレイドの環境はコンサル的な視点やアプローチに加えて、プロダクトやプロダクトをつくるという課題解決のアプローチを持っているのが強みだと思っています。
プレイドはプロダクトをつくることにも関わりますし、ホリゾンタルSaaS(業界や業種に関係なく”水平に”利用できるSaaS)であるため多種多様な業界に触れることができます。
個人的な考えですが、この先事業を興すためにプロダクトづくりの経験は汎用的かつ大きな価値がある、欠かせない学びを得られるものだと思います。プロダクトづくりが学べて、さまざまな業界に触れられるこの環境は、起業に向けた経験ができる場所だと感じますね。「この会社を使って自分に必要な経験を積もう」という考えを持っている人がプレイドには向いているかもしれません。