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プレイドだからできる自治体DXがある──STUDIO ZEROによる新プログラム「KARTE Gov.」が始動

2021年7月、「データであらゆる産業を振興する」をミッションに掲げ、プレイドの事業開発組織「STUDIO ZERO」は設立しました。2023年3月、新たに地方自治体向けプログラムとして「KARTE.Gov(カルテ・ドット・ガブ)」の提供も開始

STUDIO ZEROは今どのような状態なのか、そして行政向けのプログラムの手応えはどうなっているのか。STUDIO ZERO事業本部長の仁科奏、KARTE.Gov事業責任者の河野高伸の2人に話を聞きました。


公共政策家と事業家、二足のわらじで社会の課題を解く

——2022年にSTUDIO ZEROについて話を聞いた際は、PLAID AccelとPLAID Unisonが始動した頃だったかと思います。その後、各プログラムの手応えはいかがですか?

仁科:2022年は、1月にDXを担う人材を育てるプログラム「PLAID Chime(プレイド チャイム)」をスタートし、同年9月には新規事業開発に伴走する「PLAID Accel(プレイド アクセル)」、既存事業の変革を支援する「PLAID Unison(プレイド ユニゾン)」の2つをスタートしました。

仁科 奏:早稲田大学院経営大学院経営管理研究科(MBA)修了。NTTドコモ、Salesforceを経験後、プレイドに参画。KARTE事業拡大に従事した後にプレイドを卒業し、PR Table社にて経営職に従事。2021年4月に、STUDIO ZEROチームの責任者としてプレイドに復帰。

3つのプログラムを通じて価値創出に取り組んできましたが、どれも非常に手応えを感じています。ありがたいことに多くのお客様にリピートいただけており、中には複数セットでプログラムを導入しているお客様もいらっしゃいます。

目的は顧客企業内で事業変革を起こせる人が育ち、変革していくためのナレッジが蓄積されていくことなので、STUDIO ZERO事業として重視しているのは顧客企業のリピート率。ただし、すでに我々が伴走し終わったテーマは顧客企業で内製化していくため、他のテーマに積極的に取り組んでいきます。

顧客となる企業の経営課題に深く関与していくため、「薄く広く」ではなく「狭く深く」コミットしていくスタイルで事業を進めています。活動を重ねる中で、新たにやるべきことも見えてきました。そのための組織の強化にも取り組んでいます。

1年弱かけて、少しずつSTUDIO ZEROもチームらしくなってきています。メンバーに共通しているのは、個々が将来的に実現したいテーマを持った上で、産業変革を起こすために目の前の企業変革に向き合っていること。昨年5月にジョインした河野は、この視点をカバーしていることはもちろん、市民や社会の視点を取り入れることへの経験が豊富なメンバーです。

河野:私は新卒で財務省に入省して18年勤務した後、再生可能エネルギー関連のベンチャー会社に転職しました。そこで傑出した実業家の下で経営参謀として経営・事業課題解決の経験を重ねて成長させてもらい、この学びを生かすべく新興事業の社会実装を担う事業家の道に進みたいと考えていたところ、プレイドのSTUDIO ZEROが社内起業家を募っていることを知って入社しました。

河野 高伸:KARTE.Gov事業責任者。国家公務員として財務省入省後、予算編成、国有財産行政、金融規制(金融庁出向)等に従事。その後、再生可能エネルギー事業を営む(株)レノバにて、経営参謀として経営課題解決、組織人事戦略等を担うとともに政策渉外組織を立上げ、政策渉外活動や再エネ事業開発支援(洋上風力など)を牽引。東京大学公共政策大学院公共政策学修士修了。

私のキャリアをダイジェストで語ると、一貫性がないように見えるかもしれません。実は、小さい頃からずっと渋沢栄一のような人物になりたいと思って生きてきました。彼は幕末の時代に農民の身分に生まれ、国難に自ら立ち向かうべく武士になり、明治維新後は大蔵省にも入省しました。その後、明治日本の喫緊の課題だった産業基盤の整備にコミットするという意志のもと連続起業家・事業家として活動し、最後は教育家となり後進者を輩出しました。

私にとって、渋沢栄一は「公共政策家」として社会の課題を捉え、事業を通じて解決していた人物と捉えられます。公共政策家は、社会動態を見ながら課題を言語化することで結晶化させ、世の多くの人と共有するとともに、課題解決の挑戦者を後援する仕組みを用意するところまでは行えますが、自らが実際に課題解決そのものにコミットすることはできません。渋沢栄一は、公共政策家でもありながら、事業家でもあった。自分の人生の使い方を思案した際に、両方の道を渡り歩きながら社会を実際に良くしていった人物である彼のようになりたいと考え、職業人生を歩んできました。

「KARTE.Gov」は市民・住民体験軸で自治体DXを実現する事業

——そんな河野さんが、STUDIO ZEROで主体となって立ち上げた「KARTE.Gov」とはどのようなプログラムなのでしょうか。

河野:KARTE.Govは、市民・住民体験(CX:Citizen eXperience)という軸で自治体のDX実現に伴走する事業です。

プレイドが顧客体験基軸でのビジネスDX化を支援する過程で培ってきた事業企画や技術力、人材教育のノウハウなどを行政向けにカスタマイズし、「人材育成」「DXツール提供(=KARTE)」「分析支援」「企画支援」などのサービス群を、交流・関係・定住人口増を目指す自治体に向けて伴走支援を行います。

──どうして市民や住民の「体験」が軸なのでしょうか?

仁科:それはビジネスセクターにおいて「顧客体験」が重要であるのと、ほとんど同じだと考えられます。ビジネスであれば顧客、行政サービスにおいては市民や住民になりますが、どちらにも共通して何かしらのサービスの利用者が存在しています。

一人ひとりの利用者の幸せに貢献すると、価値が認められて、選ばれるようになります。自治体も、利用者から選ばれる立場になっていると言えます。例えば、流山市明石市など、一部の行政は、人口が増加しており、これは​市民・住民視点で価値になる政策の実現が​貢献したという見方もできます。

市民や住民に対しても、個々人のニーズを深く理解した上で、一人ひとりに最適な情報や体験などを一貫して提供する。つまり、行政サービスにおいても個別最適なサービス体験の設計と実装が重要になってきています。

──日本各地に様々な自治体が存在しますが、中でも「交流・関係・定住人口増」に着目する理由は?

河野:人口減少化が進む日本で、再び地域社会を活性化させるには、「ひと軸」でのつながりに溢れる地域、「ひとを惹きつける地域づくり」の実現が不可欠です。そのためには、「ひとの流れ」を創出し、交流・関係・定住人口増を実現することが必要だと考えます。

では、どうすれば人の流れを創出できるのか。そのためには、「ひと軸」での地域社会と個々の市民住民との繋がりを実現することだと思います。この実現には市民・住民の体験価値の最大化を志向する行政サービスが欠かせません。市民住民の方々の行政サービスの体験価値が上がっていくことで、自らの人生の中でその地域と交流すること、住むことなどへの個別具体的な幸せの充足につながります。

仁科:あえて、市民・住民の状態がどう変化していくかを、マーケティングにおけるファネルのようなフレームワークで捉えてみると、まず交流が生まれ、次第に関係が育まれ、やがて定住するという流れになると考えられます。

定住した後の体験も、もちろん重要。行政の役割は、このそれぞれの状態に対して、適切に体験価値を最大化することだと、私たちは考えています。そのため、KARTE.Govのプログラムも、どのファネルにも対応できるように設計しています。

河野:具体的な業務を挙げると、観光や移住促進、子育て支援、防災などがあります。これらの業務を個々の市民住民にとってのサービス体験軸で変革し、市民住民の幸せの充足を体感できるようになれば、行政サービスの提供者である公務員としての「働き甲斐」も変化すると思うのです。このような市民住民の体験価値(CX)向上とその体験を提供する公務員の働きがい(EX:Employee Experience)の好循環を生みだすことに伴走したい。そうすれば、市民・住民の体験軸での自治体の変革がさらに進展し、デジタルの内製化も進む、というサイクルが回るはずです。

──その好循環を生むための提供内容に、KARTEの提供だけでなく人材育成の支援も含まれるのはなぜなのでしょうか。

河野:現状、行政で働く職員の方々の多くは、業務をDXするために求められる企画力やデジタル技術を使いこなす力は民間企業の水準には至っていないと思います。また、どうしても所管の担当組織があり、縦割りになってしまっているので、サイロ化しやすい状態にあります。そのため、顧客の体験を軸にして、関係する業務サービスを利用する市民住民の体験を最初から最後まで一貫して捉えて仕事をすることへの馴染みも薄い。

こうした状況では、単にツールを自治体にご提供するだけでは変革は困難です。そもそも自治体DXでどのような業務変革を志向するかといったところを理解し、納得いただいたうえで、ツールをどう使いこなすかも含めてのご支援が必要だと考えています。私たちがこれまで「PLAID Chime」で積み重ねてきた実績を応用して、体験を軸としたマインドセットを促進するための人材育成も重視しています。

ミッションのために、地域社会を支えるOSを「人に優しい」ものへ

──KARTE.Govがどのようなものかはつかめてきました。ただ、STUDIO ZEROがこの領域に取り組むのは少し意外でした。なぜ、今のタイミングで?

仁科:実は、KARTE.Govは私たちのミッションにつながるものなんです。プレイドのミッションは、「データによって人の価値を最大化する」というもの。この「人」というのは法人と、生活者の両方があると私は考えています。

STUDIO ZEROとして活動を構想して、法人の変革には一定の成果が出るだろうという手応えが初期からありました。ただ、それだけではミッションは達成されません。ミッションを達成するには、生活者に対するアプローチも必要だからです。

そのため、STUDIO ZEROという事業を構想し始めた2年前から行政に向けての支援内容の検討やPoCは始まっていました。もちろん、初期は売上や利益にはつながらないので、社内からも疑問の声は常にありました。ここでブレずにコミットし続けたのはミッションのため、生活者のためです。

河野がジョインしてからは自治体や行政に対する私たちの解像度も上がり、事例も生まれてきたので自信にもなりましたし、社内の空気も変わってきました。ミッションにまっすぐに向かってきた上で、KARTE.Govをスタートする土壌が整ったのが今なんです。

河野:STUDIO ZEROは、産業と社会の変革を加速させるための組織です。このためには、民間のみならず国家や地域の視点も持ちながら、課題解決のバリューチェーンを構築できる新興事業に挑むことが必要です。今回の取り組みは、そこに向かうための最初の一歩です。

これは私たちのミッションにもつながることでもありますし、日本政府が掲げるDXの方針にも合致するものです。2020年12月に閣議決定した『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』において、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」というデジタル社会のビジョンを掲げ、このような社会を目指すことで「人に優しいデジタル化」を進めるとされています。

──「人に優しいデジタル化」というのが、KARTE.Govが目指すことにもつながるのでしょうか。

河野:はい。「人に優しいデジタル化」のため、ユーザーである市民・住民一人ひとりの体験価値の最大化を図ることを目指しています。行政サービスのDXは、その一丁目一番地の位置付け。利用者の目線に立ち、まずはここで新たな体験価値の実現を目指しています。

行政サービスは、社会が動いていくための基盤となる部分を担っている。人や社会が活動するために不可欠なものを供給するのは「OS(オペレーティングシステム)」だと捉えており、KARTE.Govが目指すのは地域社会を支えるOSを変えるということでもあると考えています。

KARTEだからできる、「ひと軸」での行政サービスのパーソナライズ化

——KARTE.Govがミッションドリブンに動いてきた結果であり、社会全体のDXの方針とも合致するものだとわかりました。実際にKARTE.Govの支援を受けると、具体的にどうなるのかをお伺いできますか?

河野:政府が策定した「デジタル・ガバメント実行計画」では、プロジェクトを成功させ、利用者中心の行政サービスを提供するために必要となるノウハウを、「サービス設計12箇条」として示しています。そこで挙げられている項目が、KARTE.Govと非常に親和性が高い。

第1条  利用者のニーズから出発する
第2条  事実を詳細に把握する
第3条  エンドツーエンドで考える
第4条  全ての関係者に気を配る
第5条  サービスはシンプルにする
第6条  デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条  利用者の日常体験に溶け込む
第8条  自分で作りすぎない
第9条  オープンにサービスを作る
第10条 何度も繰り返す
第11条 一遍にやらず、一貫してやる
第12条 システムではなくサービスを作る

「デジタル・ガバメント実行計画」のサービス設計12箇条

特徴的なのは、第1条の利用者のニーズから出発するという、いわゆるサービスデザイン思考ですね。あと、エンドツーエンドで考えるとか、利用者の日常体験に溶け込むなどの項目が挙げられています。KARTEが持つ顧客を「知り、合わせる」と呼ばれる機能は、この「サービス設計12箇条」を具体化するために必要な、個別最適化を実現するものだと考えています。

行政のサイトは、様々な目的、状況のユーザーが訪問するため、必要な情報が掲載はされているものの、情報量が多く、複雑になってしまっています。KARTEの機能を使えば、一人ひとりのユーザーに合わせて、パーソナライズされた情報を提供できます。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの調査によると「行政サービスのパーソナライズ化へのニーズは高く、生活に対する満足感や近隣コミュニティとのつながりを感じる人は、行政サービスのパーソナライズ化を求める傾向がある」ことが明らかになっています。KARTEは、このニーズにも合致しているんです。

——そして、「ひと軸」でのデータが蓄積され、それを活かすための分析や企画の支援もKARTE.Govでは行う、と。

河野:はい。KARTEを用いた顧客体験向上を各社の企業活動に根付かせてきた経験を通じて培ったナレッジがあります。それができると、デジタル化していく行政サービスもひと軸で提供できるはずです。

仁科:以前、三田市での勉強会に参加した方が一緒にKARTEを使ったn1分析を経験した際のことが印象に残っています。その時は、管理画面のユーザーページを見ながら、「この人はこんな困りごとを抱えている可能性があるので、サイトでこうやって動いているのかもしれませんね」といった話をしたんです。

そしたら、その方が「データって冷たいものと思っていましたが、こんなに人感がわかるんですね。データを誤解してました」といったことをおっしゃって。ああ、KARTEの「知る・合わせる」はここでも響くんだ、と実感しました。

——それは嬉しい事例です。KARTE.Govは既にユースケースも生まれていますね。どのような成果が生まれていますか?

河野:奈良市や、先ほどの三田市などでユースケースが生まれています。

奈良市とは、2022年1月〜4月の期間に、市のホームページをより分かりやすく、より使いやすいサービスに発展させる「デジタル市役所構想」の実現に向け、KARTE.GovのCXデジタルプラットフォームを活用した協働実証を行いました。

具体的には、奈良市の子育てポータルサイトを対象に当該ホームページの個々の来訪者の方が、子育て支援に関する情報で「何を知りたいか」を私どものCXデジタルプラットフォームの機能を用いて把握し、個別最適な情報発信を検証しました。

奈良市には、2023年4月からKARTE.Govの本格導入をしていただくことになりました。奈良市と協働して市Webサイトを皮切りに、奈良市住民や奈良市に関わる方々に先進的な情報配信モデルを提供し、行政サービス体験価値の最大化に寄与していきたいと思っております。

三田市とは、2022年7月〜11月の期間にKARTE.Govのサービス群を用いて「市公式ホームページの個別最適な情報発信」をはじめとしたデータ利活用による利便性の高い行政サービスによる市民・住民体験の向上に関する有効性と課題を把握することを目的とした協働実証を行いました

具体的には、人材育成の一環として、市職員のマインドチェンジ啓発を促すと共に、「市ホームページにおける個別最適な情報発信」等の実証テーマのアイデーションといった市職員向けの研修プログラムを実施。その際に考察したテーマを対象にKARTEを活用した個別最適な情報発信やユーザー行動データ分析による施策検討に関する実証を行いました。

これらのユースケースを重ねることで、行政サービスにおいても、民間サービスと同様に利用者の体験価値の最大化を目指すことが求められている、という仮説は妥当である、という確証が得られました。

地域課題を解決する新たな仕組みの社会実装を目指して

——最後に、今後の展望はどのようなものを描いていますか?

河野:私たちは、地域社会を市民・住民体験という軸でのDXを推進することを通じて、一人ひとりが自己実現できる地域社会の実現、幸福な生活の提供に貢献したいと考えています。

現在、地域課題の多くの解決が行政に委ねられていますが、これからの地域社会の人口動態や社会経済課題を考えると、このモデルの維持は限界が来ています。子育てや介護など様々な課題は、行政が民間とアラインメントして、各地域の総力をあげて解決する仕組みを構想し、社会実装できればと思います。公共政策家として、そんなビジョンを描きながら、事業家としてそのビジョンの実現に向かうための新しい事業をどんどん仕掛けていきたいですね。

そのためにも、まずはKARTE.Govを多くの基礎自治体の方々中心に使っていただくこと。最初に導入いただいた奈良市さんと共に、KARTE.Govのトータルのサービス提供力を磨き上げることに注力できればと思います。

仁科:STUDIO ZEROに、KARTE.Govという新たなサービスが加わりました。KARTE.Govは社会の変革を目指す活動という観点ではSTUDIO ZEROそのものとも言えます。KARTE.Govにおいては、行政のニーズに応じて既存のサービスと組み合わせながら展開し、事業として力強い成長を目指します。もちろん、産業の変革にもこれまで以上にコミットしてSTUDIO ZERO全体での成長も加速させていきます。

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