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物流を起点に価値を創造していくSTUDIO ZEROの新サービス「.Logi」は何故生まれ、どのような価値をどのように目指すのか。

「産業と社会の変化を加速させる」をミッションに掲げ、各産業のフラッグシップとなる事例を創出する事業開発組織「STUDIO ZERO」。2024年7月、伴走型物流価値創造サービス「.Logi(ドットロジ)」の提供を正式にスタートしました。

なぜ物流業界の課題にSTUDIO ZEROとして挑むのか。どのような手腕で伴走していくのか。物流業界に20年以上携わり、.Logiの事業責任者として2024年4月にSTUDIO ZEROにジョインした上田淳志とSTUDIO ZERO代表の仁科奏に話を聞きました。

STUDIO ZEROが物流領域に挑む理由

――STUDIO ZEROとして物流業界向けのサービスは初めてですね。

仁科:STUDIO ZEROは、2021年7月の設立からの3年間で、DXを担う人材を育てるプログラム「PLAID Chime(プレイド チャイム)」、新規事業開発に伴走する「PLAID Accel(プレイド アクセル)」、既存事業の変革を支援する「PLAID Unison(プレイド ユニゾン)」、地方自治体向けプログラム「.Gov(ドット・ガブ)」を立ち上げてきました。今回開発した「.Logi(ドットロジ)」はSTUDIO ZEROとしては5つ目の事業になります。

仁科 奏(STUDIO ZERO, 代表)

――なぜ、物流業界での価値創造に取り組むことにしたのでしょうか。

仁科:STUDIO ZEROでは、これまで多くの企業の新規事業開発に伴走支援してきました。その過程で、EC事業を立ち上げてから収益化まで時間がかかるケースを目の当たりにしてきました。原因を深掘りする中で、事業戦略や営業・マーケティング領域の改善だけではなく、物流領域にも改善の余地が大きいことには気が付いていました。

たとえばEC事業においては、マーケティングや商品開発には日が当たりやすいものの、物流まで手が回っていない事業者が多いのが現状。しかし事業が成長し、売り上げが伸びていれば、裏では必ず新たな配送が発生しています。そこで今回、STUDIO ZEROとして物流領域に新しい一手を打つことを決めました。

私たちがやりたいのは、多角的な視点から物流の価値を共に創造し、知見や経験が当事者および社内に蓄積されるような「内製化」の推進です。最終的には私たちの伴走がなくても、各社が自走できるようになるのが理想。エンドユーザーに荷物を届けるまでの一連の流れをCX(Customer Experience : 顧客体験)と位置付け、コモディティ化が進む世界で、これまでにない価値あるインフラ構築を目指しています。

.Logiを開発するに至った直接的なきっかけは、事業責任者である上田と数年前に出会ったことです。STUDIO ZEROは社内起業組織ということもあり、我々が解きたいイシューを解ける人を採用するのではなく、解きたいイシューがある人を採用するのが基本。物流業界に深く関わり当事者としての知見を持ち、顔も広い上田を介して、倉庫業者や不動産デペロッパー、配送業者など、物流の主要なプレイヤーと話してみると、皆が口を揃えて「物流業界は非常にまずい状況」だと言っている。これは本当に誰かが課題を解決しなければならない状況だと理解しました。

STUDIO ZEROにはEC事業者の事業開発には深く入り込んでいる事例も多くありましたから、物流まで領域展開をしていくことは比較的着手しやすく、かつシナジーを生み出しやすい。そこで上田にSTUDIO ZEROに入ってもらい、事業を先導してもらうことにしたのです。

上田:最初、仁科に物流業界の課題を解きたいという話をした時は、「これまでSTUDIO ZEROに物流の相談は来たことがないよ」と言われました。それを聞いて逆にチャンスだと思いましたね。誰もまだこの課題を解きにいっていないのだろうと。であれば自分がSTUDIO ZEROに入って、取り組む意味があると思い、ジョインを決めました。

実際に入って、仁科やメンバーと話す中で、経営目線や事業開発目線も含め、課題に対する解像度がどんどん上がっています。なお、宅配便市場を含む物流業界の市場規模は約24兆円で、自社物流まで含めると64兆円に上ります。市場としても大きく、ビジネスチャンスも充分にあります。

上田 淳志(STUDIO ZERO, Business Architect)

物流のブラックボックス化がEC事業者の成長を阻む

――物流業界の具体的な課題を教えてください。

上田:よく言われるのが2024年問題。トラックドライバーの労働時間上限が国によって見直され、2023年の輸送能力を100とした場合、2024年度には約14%不足、2030年度には約34%不足することが見込まれています。もしかすると、物流は今が最高品質かもしれません。いずれは「届けてもらう」ではなく、どこかへ「取りに行く」が当たり前になってもおかしくありません。

そうした状況の中、EC事業者も何か手を打ちたいと考えています。いくら商品を売っても、肝心な物流がうまくいかなければ商品を届けられませんから。しかし、多くのEC事業者はこれまで倉庫や配送を外注してきたので、会社に物流に関するナレッジが貯まっていません。

私自身、物流業界に約20年間携わってきてよく聞くのは、物流はブラックボックス化しやすいという声です。物は届くけれど、その裏の仕組みが見えにくい。ステークホルダーが非常に多いのも理由の一つですね。出荷する人、物流施設で働く人、配送する人など多くの役割があり、自社完結ができない。しかも、物流に関する情報はネットや本を見てもかなり少ないんです。

物流はビジネスへのインパクトが非常に大きいものの、まだまだ未着手でブルーオーシャンです。ここで違いを生み出すことは事業価値に直結します。今、世の中で元気な会社は物流が強いと思います。

たとえばAmazonもそうですね。Appleは、iPhone12から充電用のUSBアダプタや有線イヤフォンの同梱をやめていますが、それにより物流効率が飛躍的に上がりました。ユニクロは2018年にオープンした有明の物流センター長に、当時世界で売り上げNo.1の店舗だったニューヨークの店長を任命しました。今後、有明が世界最大の店舗になると考えたからです。今年就任したモノタロウの社長は、長年物流拠点で働き、現場をよく知る女性です。物流がビジネスそのものや組織を変えるという潮流が強まってきています。

だからこそ、私自身も物流の一プレイヤーとしてだけでなく、もっと広い範囲で物流業界の変革に取り組みたいと思うようになりました。物流ができる人と物流で困っている人をつなぐ結節点になりたいと考えています。

多角的な視点から物流の価値を共創する.Logi

――.Logiでは具体的にどのようなサービスを提供していきますか。

上田:現時点で考えていることは大きく4つあります。1つ目は、クライアントの社内に「物流+αなプロフェッショナルチーム」を作ること。物流に関する視座が重要だという意識を社内に醸成し、知見のノウハウを貯めて、最後には自走できるところまで伴走支援をします。

一般的に企業が自ら物流を何とかしたいと思うのは、大体年商3億円くらいから。それくらいまでは人海戦術で何とかやれてしまうんですね。その段階まではセールスに忙しく、物流まで考えている余裕がないというのが実情だと思います。

しかし、そこで焦って準備しようとすると、どうしても物流会社任せになってしまう。当然ながら自社内にナレッジが貯まりません。コストに無駄があるかどうかもわからないし、運送会社が値上げを要求してきた時にそれが妥当かのジャッジも難しい。時代の流れが速い今、もっと早い段階から物流を専門で考える人を置いたほうがいい。我々は物流部門新設やその評価基準の構築なども支援しながら、最終的にはCEOやCFOに並ぶポジションとして活躍できる、CLO(チーフ・ロジスティック・オフィサー)を業界に増やしたいと思っています。

2つ目は「イノベーションと技術の融合」です。物流は完全な無人化は難しいものの、自動化や省力化できる部分が多くあります。物流現場はまだまだアナログなので、最新のテクノロジーを駆使して物流プロセスを効率化し、コスト削減やパフォーマンス向上の実現を支援していきます。

――改善できる現場としてはどんなものが考えられますか。

上田:たとえば倉庫においては、いかに人が歩く時間を短くできるかが効率化のカギです。倉庫によっては、ピッキング作業の担当者が1日の労働時間の約7割を歩くことに費やしているケースもあるほどです。その時間を少しでも短縮できれば、人にしかできない仕事にもっと注力できます。革新技術を活用しながら、理想の現場作りに貢献していきたいですね。

3つ目は「持続可能なソリューション」です。環境に配慮したサステナブルな物流ソリューションを提供し、企業のESG目標達成をサポートします。物流は距離や人の移動を伴い、時には飛行機も使うため、環境インパクトを数値化しやすく削減に取り組みやすい。GX(グリーン・トランスフォーメンーション)の結果を出しやすい業界だといえます。

前職で携わった取り組みになるのですが、ふるさと納税を運営する会社のサプライチェーンの流れを変えたことで、CO2の排出量を約5割削減しました。その会社は、返礼品として北海道の海産物が人気で、その半分以上が関東からの注文でした。以前は注文が入るたびに航空便で発送していたところ、過去の出荷量から月別の平均値を算出し、月に1回、船で関東の近くの専用倉庫に運び、そこから配送する運用に変えたのです。この取り組みは表彰もされているのですが、GXへの取り組みは企業の価値を高めます。.Logiでも加速させていきたいですね。これまでは宣言するだけの企業が多かったのですが、昨今はもう多くの企業が実行フェーズに移っています。

GXは4つ目の「共同配送提案」にもつながります。今は各社が個別に配送を手配していますが、工場が近ければまとめて配送したほうが環境負荷もコストも少なくて済みます。自社の利益だけを考えて投資をするより、ずっとサステナブルです。ただ、サプライチェーンの戦略や構造を他社に知られたくない事業者も多いので、調整は多少難航するかもしれません。逆に言えば、物流はそれほど重要な経営のファクターだということ。

だからこそ利害関係がない我々のような立場が言い出すことが大事で、うまくハブとして機能できたらと考えています。利益を最大化したいという各社の思いと、もっと広く世の中をより良くしていく視点、2つのベン図を描いていきたいですね。

足元の課題を解きつつ物流業界の変革を目指す

――すでに始まりそうな取り組みはありますか。

上田:実はすでに実証を兼ねて、大阪ガス様と具体的な取り組みを始めています。大阪ガス様では、冷蔵パウチ食品を届ける定期宅配サービス「FitDish」というEC事業を展開しており、ユーザーを増やすための施策を検討されています。我々のほうでは、ユーザー増に耐えうる物流戦略の設計や検討を一緒に行っています。

すでに大阪ガス様とは、PLAID AccelによってFitDishの事業を伸ばしてきた実績があります。.Logiによって物流の部分をよりグロースさせられると考え、「やってみませんか」と提案したところ、快諾していただきました。

その他、まだクライアントではない企業からも、「物流はブラックボックス化しているので、何が正解かアドバイスがほしい」「成長戦略に合わせた物流戦略はどう作っていけばよいか」などの相談をいただいています。

仁科:大阪ガス様との取り組みをベースに、今後どんどん成功パターンを作り、事業を拡大していきたいと考えていますが、一定の型に固執するつもりはありません。ニーズやインパクトを含め、途中で少しでも別の方向性のほうが良いと思えれば、変なこだわりは持たず、柔軟にアプローチを変更していくスタンスです。あくまでサービスの特徴も現時点でのスナップショットであり、この先もどんどん磨き続けて、事業開発のピボットは日常的にしていくつもりです。そこも含めて期待していただきたいですね。

――現時点で考えている将来的な展開について教えてください。

仁科:物流領域は情報の非対称性が非常に大きいので、まずはそれを解消していくところからだと思っています。情報を見える化し、我々の知見も一定は型化しながら事業全般の最適投資を促進していきたいですね。物流コストは決して安くありませんから、うまく削減できれば、そのコストを人件費に回したり、商品を値下げしたり、原資に使ったりできます。それができていない現状は非常にもったいないと思います。

とはいえ、STUDIO ZEROが最も大事にしているのは、ミッションである「産業と社会の変化の加速させる」こと。それを実現することこそが我々の存在意義であり、その他はすべて手段でしかありません。これまで話してきたEC事業者に対する取り組みは、いわば足元で解くべき課題です。ですからEC事業者に閉じるつもりはなく、今後は他の業界のクライアントにもどんどん還流させたいですし、最終的には不動産や配送業者など物流のプレイヤーとも連携して、バリューチェーン全体をどうやってデザインをするかを考えたいですね。物流インフラ全体を正しく整備していくことを目指しています。

上田:EC事業者に対する取り組みも、いろいろな展開が考えられます。前職で注力してきた静脈物流(返品など伴う物流のこと)は、今後ますますボリュームやニーズが増えていくでしょう。返品可や試着感覚で利用できることを売りにしているサービスも多くなっていますから、いかに返品を効率化するかはEC事業者も課題だと認識しているはずです。

以前から靴はサイズやカラーなどSKU(最小管理単位)が多く、物流の中でも一番難しいと言われてきました。メーカーによってサイズ感も違いますから、返品を容易にしておかないと消費者は買いづらいですよね。返品リスクも高さを最初から考慮した仕組み作りが大切です。また、越境EC(国境を越えた電子商取引)の場合、送料が高額になるため、今は返品なら破棄という商習慣が一般的ですが、もっと別のやり方もあるかもしれません。

倉庫など物流施設も変革の時期です。すでに複数の不動産デベロッパーと会話を始めていますが、場所の価値をどう高めるかについて話すことが多い。集荷や納品にくる運送会社が「この物流センターはスムーズだから納品しにきたい」と思えるような場所になればいいですし、IKEAやコストコのように実際にお客様が来られる場所にするのも、一つの理想の形だと思います。

物流不動産企業のGLPがおもしろい取り組みをしています。彼らは日本各地に作る物流拠点をプロフィットセンター、つまり価値を創造する場にしようとしています。たとえば神奈川県相模原市の「GLP ALFALINK相模原」は物流施設の中にカフェやレストランなどがあり、地域の人たちも利用できます。

また、千葉県流山市の「GLP ALFALINK流山」は日本最大級の物流施設で、移動のためのバスや託児所も整備され、いわば一つの町。働きやすさへの配慮に加えて、人気のアパレル企業なども入居しているため、ここで働きたいという若い人が増えています。流山市は自治体として魅力発信や子育て世代の誘致に成功し、人口増加率が6年連続全国1位を記録していますが、雇用創出によってそれを下支えしているのが物流施設です。

仁科:物流施設は雇用を生むので、地域活性化につながります。STUDIO ZEROではすでに展開している自治体向けサービスの.Govとの親和性も高いので、今後何らかの共創ができたらと思います。


STUDIO ZEROだから切り拓ける、爆速で登る道

 
――社内起業組織であるSTUDIO ZEROの取り組みとして、.Logiはどんな意味を持ちますか。

仁科:.LogiはSTUDIO ZEROとして理想的な流れで事業開発が進んでいる一例です。STUDIO ZEROには組織の一員としての振る舞いを示した「零道(ぜろみち)」という指針があるのですが、その項目の1つに「信頼残高」という言葉があります。単純に作業や課題を全うする活動ではなく、クライアント・チーム・関係者と良い関係を築き、助け合い、そして信頼を形成することを謳ったものです。

一般的に新規事業の1社目の受注は非常に難しいのですが、今回大阪ガス様が我々の「まずはやってみませんか」という提案をすぐに受け入れてくれ、爆速で取り組みを進められているのは、まさにこの信頼残高のおかげ。これまでの支援を通じて信頼残高を積み上げてこられたからだと思っています。

STUDIO ZEROは、設立からこれまでの3年はこの信頼残高をとにかく貯めてきた時期でした。今年から順次活用できる時期に変わり始めています。信頼残高を使って別の事業で何かを受けとれたり、さらに信頼残高が増えたりする。.Logiを起点にSTUDIO ZEROの事業フェーズとしてのギアが1、2段階入れ替わったような感覚があります。

――STUDIO ZEROに信頼が蓄積されることで、クライアント側に返せる価値も変わるのでしょうか。

仁科:事業経営者や事業責任者の多くが、難易度の高いイシューをいつも抱えています。できることなら、頼れるプロの力を借りて即決したいと考えているでしょう。その中で、ビジネスパートナーになりつつある私たちが、ボールを投げれば必ず打ち返し、時には新しい提案を持ってくることを示せれば、「STUDIO ZEROに頼れば、結果的に、人・組織・ナレッジを残してくれて、組織作りも進む」という理想的なCXを提供できます。

信頼残高が積み上がってお客様からの期待値も上がり、「こんなことはできないの?」と気軽に相談してもらえるようになることは、事業としてもプレイドからしても望ましい形です。社内起業家/事業家であるSTUDIO ZEROに求められているのは、まさにそこなのかなと思っています。

上田:STUDIO ZEROに参画してまだ日は浅いですが、すでに大阪ガス様をはじめ、複数の会社と具体的な話が動き始めており、企画の検討初期から関われて爆速で進められていることに驚いています。過去によく感じていたのが「あと半年早く相談してくれたら、もっとロジカルなサプライチェーンを作れたのに」ということ。物流は上位システムの作り込みが終わった最後に整理することが多く、非効率になりやすいんですよね。

たとえば3つのシステムから別の帳票が出てきて、それらをまとめて梱包するためだけに追加のコストがかかるとか。それなら最初から1枚に出力する設定にしておけば、時間もコストも節約できたはずです。ですから常々物流について早いタイミングでクライアントとコミュニケーションができるポジションにいきたいと思っていたのですが、STUDIO ZEROでそれが叶っています。

また個人的にSTUDIO ZEROは、canではなくwillを促進できる組織だと感じています。自分一人ではwill止まりだったことも、仁科に相談すると「それってcanに近いのでは?」と言われて、そうかと気づくこともよくあります。

――最後に今後のSTUDIO ZEROとしての展望をお聞かせください。

仁科:サービス特徴の3つ目「持続可能なソリューション」でも上田が話したとおり、GXはSTUDIO ZEROとしても特に力を入れて取り組んでいくテーマの一つ。グローバルにおいてもトップイシューですし、コーポレートガバナンスにおいても大きなテーマなので、経営者であれば取り組む必要性を120%感じているでしょう。我々もしっかり向き合っていきます。

上田:今、上場企業は気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられています。そのため、どの企業もサプライチェーンの排出量の3つのスコープ(直接排出量、間接排出量、その他の排出量)を可視化しようとしています。当然、可視化した後に考えるべきはそれをどう削減していくかです。その検討も一緒に行っていきたいです。

決して綺麗ごとではなく、2100年くらいのずっと先の未来に、本当に良い地球であるためには、今すぐにでも環境負荷を考えた物流にしなければいけないと心から思っています。持続可能な未来に向けて、物流の最前線に本気で伴走していきたいと考えています。