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プレイドCPOが語るプロダクト・組織ビジョン。大切にしていること、次に向けて取り組んでいること。

「プロダクト・技術・組織の方向性をいかにして決め、どうやって施策を推進するか」は、企業の成長や継続性を左右する重要な要素です。プレイドのCo-Founder/CPOである柴山直樹は、創業当初からこれらの方針を策定し、事業や開発組織の中核を担ってきました。
柴山は何を大切にしてCPOの業務を担っているのでしょうか。今回はプロダクト開発から組織運営まで、さまざまなテーマについて話を聞きました。


起業志向の強かった学生時代。お互いを補完し合える共同創業者と出会った

――柴山さんは東京大学の大学院の博士課程をドロップアウトしてプレイドを創業したそうですが、まずはその経緯からお聞きしたいです。

私はもともと起業志向が強くて、大学に行きつつベンチャーで働いていました。それも、基本的には将来起業するためのステップとして行っていましたね。とはいえ、私は根っからのエンジニア気質で事業の知識に乏しかったので、起業するならビジネスに強いパートナーが必要だと思っていました。

そんなとき、同じベンチャーで働いていて、今のプレイド監査役でもある後藤圭史が、「知人がエンジニアを探しているから」と、一緒に共同創業者となる倉橋健太を紹介してくれたんです。当時の私は周りの人を巻き込むのが苦手で、一人で突っ走るようなタイプの人間でした。一方、倉橋は人の懐に入り込むのがうまくてリーダシップがあり、かつアイデアマンです。お互いがお互いにない要素を持っており、一緒にやろうと意気投合しました。

――博士課程を修了しアカデミアに進むのも魅力的なキャリアだと思うのですが、それ以上に起業に惹かれたのですか?

大学院では分散環境における機械学習の研究をしていました。当時はHadoopという分散計算フレームワークなどを使った、データ分析が流行していたんですよね。でも、大学院で研究に取り組んでいると、教育機関よりもGoogleなどの企業が取り組む研究のほうが、もっと面白いことをやっているように見えました。

やはり、実務で直面する課題を解決するために、より高度な分析技術が求められるからだと思います。それから、私は「資金が潤沢にある環境のほうが、より大きな挑戦ができる」と思っている人間なので、そういった意味でも教育機関より企業のほうがやりがいがあると思い、起業を目指しました。

――創業以降、柴山さんはCTOのロールを務め、2019年からCPOに役割変更されています。この経緯についても聞きたいです。

現在の執行役員CTOである牧野祐己のほうが、私よりもテクノロジーに強いからです。それに加えて、私はもちろん技術のことも好きですが、どちらかといえばプロダクトの方向性を考えることにより興味があります。適性としてCPOのほうが合っていると思ったんですよね。

――現在はCPOとして、どのような業務を担われていますか?

本来CPOはプロダクトに責任を持つ立場ですが、最近はプロダクトに直接と言うよりもプロダクト組織の運営に関する業務にかなり時間を割いています。各プロダクトの方向性は個々のプロダクトオーナーに任せて、私は主に人員のリソースプランニングについて考えています。関連して、組織運営の方法や評価制度の設計などの仕組みやルールを作っていくことに注力しています。もちろん、プロダクトのビジョンやポートフォリオマネジメントを私が作成することもありますが、割合としては低くなっています。

私たちはコンパウンドスタートアップとして複数のプロダクトを展開していますが、その方針で事業展開する場合には一人の人間がプロダクトの方針策定をするよりも、プロダクトごとにオーナーを立てるほうが効率的です。事業や組織構造の変化に伴って、私の役割も変化してきていますね。

理想的なユーザー体験の実現のために、多彩なデータ活用プロダクトを提供

――「コンパウンドスタートアップ」というキーワードが出ましたが、展開している「KARTE」シリーズのプロダクト群についても伺いたいです。

Webサイトを訪問したユーザーの行動を理解して、パーソナライズされた最適なアクションを行う「KARTE Web」やそのモバイルアプリ版である「KARTE for App」、顧客データや行動データ、オフラインデータなど分断されているデータベースを統合する「KARTE Datahub」があります。もともとは2015年にWeb版から「KARTE」事業をスタートして、「KARTE for App」と「KARTE Datahub」は2018年にリリースしました。このあたりが、これまでのプレイドの成長を牽引してきた現在の中核事業です。

その後、「KARTE Blocks」「KARTE Signals」「KARTE Message」など、KARTEを冠したプロダクトを次々にリリースし、マルチプロダクト展開を進めています。各プロダクトは、一部例外のものもありますが、基本的に私が管掌するProduct Deptの中に担当チームがあります。

Product Dept内の組織構造としては、各プロダクトチーム内にはエンジニアやデザイナーといったものづくり系のメンバーだけではなく、営業やカスタマーサクセスなどのビジネス職のメンバーも所属しています。また、プロダクトチームとは別に、Product Dept横断で方針策定や共通的な仕組み作り、レビューなどを担うチームも存在しています。各プロダクトチームは、その横断組織に対してレポーティングを行う構造になっていますね。

他にも、開発者の生産性やアプリケーションのパフォーマンスを向上させることにフォーカスする組織や、各プロダクトに閉じない機能の開発や整理を担い複数プロダクトの価値を同時に向上させる組織、蓋然性の低いプロジェクトに期限を設けて挑戦を続ける組織がProduct Deptに含まれています。

また、これらも構造上違う管掌組織なのですが、独自のデータ解析エンジンの開発などを担うCore Platform Deptや、プロダクト組織の組織内人事的な機能を持つEngineering Managementチームなどとも強く連動して、プロダクト開発を進めています。

――コンパウンドスタートアップの方向に舵を取ったのはなぜでしょうか?

プレイドが取り組んでいることを抽象度高く話すと、顧客の先にあるエンドユーザーのデータを解析・分析して、それをもとにユーザーの体験を良くするためのシステムを提供することです。この取り組みの有効性を示すために、Core Platform Deptが開発している独自のリアルタイムユーザー解析エンジンを根幹に、まずは「Web接客」という領域を創出し、そこを入り口にプロダクトを展開してきました。

一方で、データを解析・分析し、データを活かしたアクションを提供するという我々のコア技術を活用することで、あらゆる領域や顧客接点、課題解決に入り込むことができます。たとえば広告配信であれば、データを適切に活用することで「的外れな広告」を減らすことができ、ユーザーと企業双方にとって好ましい接点にすることができます。複数のプロダクトを展開することで、それらの領域を埋めていこうとしています。

事業戦略観点でお話しすると、エンタープライズ企業にプロダクトを導入いただく中で、「なるべくKARTEシリーズのプロダクトで、自分たちの業務要件をすべて満たせるようにしたい」とか「全部署で使用ツールをKARTEシリーズに揃えたい」などの要望が寄せられるケースがあります。そういった場合、マルチプロダクト展開をしておくとエンタープライズ企業への導入がしやすくなります。単一プロダクトだけで事業展開を進めると、顧客を増やすことでしか売り上げが増加しません。アカウント単価を上げていくためにも、マルチプロダクト化して複数プロダクトをクライアント企業に導入していくほうが、事業を成長させやすくなります。

事業目線でお話ししましたが、統合された多面的なデータの活用がなされることは、理想的なユーザー体験の実現につながると思っています。ユーザー体験が良くできるからこそ企業に導入され、結果プレイドもプロダクトも成長できる。こういったサイクルを、技術やプロダクトを基点に強めていきたいです。

ボトムアップを前提に。ルールは最小限に。

――冒頭で「組織運営に関する業務にかなり時間を割いている」という言葉がありましたが、体制構築においてどのような点を重視していますか?

リスク管理はしっかりしつつも、各プロダクトチームになるべく裁量を渡す組織にしています。それに加えて、各チームのメンバーやリーダーがボトムアップで動いてくれるように、自発的にモチベーションが湧く体制を意識していますね。

エンジニアにとってはプロダクトや技術の方針、たとえば技術選定や機能開発の優先度などを考えて決める裁量を渡されることが大きなモチベーションにつながると考えているので、なるべくその機会を創出できるようにしています。それに関連しますが、技術だけではなく、なるべくプロダクトや事業への関心があるエンジニアを、プレイドでは採用するようにしています。

逆に裁量を渡していないものとしては、リソースプランニングや給与決定権です。前者については、チーム内でリソースを調整してもらう分には構わないんですが、仮にメンバーの採用を各チームが自由にしてしまうと、コストマネジメントや人員の全体最適化といったことがうまくいかなくなります。後者については、決定にあたり経営状況なども含めた複合的な要素を鑑みる必要があるためです。これらは中央集権的に方針を決めています。

他の部分はかなり自由にしていて、各チームがどのようなスケジュールでプロジェクトを進めても、マイルストーン・目標の設定などをしても、ほぼ事後報告のような形で運営しています。きちんと良いメンバーを採用できていれば裁量を大きくしてもリスクはあまり発生しないと考えていて、それ以上にメンバーの自発性から生まれる新しい価値を信じています。

――組織の健康状態を維持するために取り組んでいることはありますか?

基本的には、組織の問題をできるだけ早期に検知して修正することが大事です。プロダクト開発や組織運営にあたって課題がある場合に、メンバーがその旨を発言したりNotionやSlackに書いたりしてくれれば、担当チームを経由して私が情報をキャッチアップし、そうした意見をなるべく取り入れるようにしています。

これはエンジニア組織に限りませんが、プレイドの仕組みや構造は性善説の意識が強く、「ルールは最小限に」という考え方です。既存のルールも細かく定義しすぎないものが多く、多少のエラーは許容しつつ、改善を続けていこうと。組織や仕組みを考える際には、運用していく中での変更可用性を常に想定しています。

私たちのように組織の仕組みを作っている側も完璧な人間ではないので、運用に携わる人たちにとって苦労の大きいルールを設定してしまうことや、現場の実情に即していないルールになってしまうことも起こり得ます。そんな場合に、なるべくメンバーからの声を拾い上げる仕組みにしておくと軌道修正がしやすくなるので、重要な取り組みだと考えています。

今後は、意思決定や議論の過程を適切に伝えていくとか、オープンにコミュニケーションをして成立させていくことも、より考えていかないといけない。見たい人・知りたい人が正しく情報に触れられるように細かなこともやっていく必要があるかなと思っています。

――ボトムアップの組織運営をするために、採用ではどのような要素を持った人を採っているでしょうか?

当たり前のことではありますが、昔から一貫しているのは真面目で、謙虚で、ポジティブで、オープンマインドであること。本当に普通のことを大切にしています。あとは、目的志向や学習意欲の高さなども重要視しています。技術力はもちろん大切ですが、挙げたようなパーソナリティ的な要素の方が比重的には優先順位が高いですね。

一番初期の頃は本当に技術力を見なかったんですけど、最近は少し意識的に見るようになり、経験も見るようになりました。採用力も上がってきたというところもあると思います。当初は、経験値がある人がうちに入ってくれる気配が全然なかったので、経験値聞いても仕方ないと思ってて、コードも書いたことありませんみたいな人も初期は採用していたんですよ。会社や組織としてもフェーズが全然変わったし、採るべき人・採れる人も変わってきた感じですね。

「ボトムアップ的に自分で考えて自分で動く」という組織構造の場合、自分で考えるというのはそれなりに苦しい行為なので、前向きなマインドでなければやっていけません。自分で意思決定するとなると、正しく自分に責任を問える自責力とでも呼べる能力も必要です。組織的な特徴を踏まえて、その環境で力を発揮できそうな人を見極めて採用したいと思っています。

話は少し変わりますが、採用面談時には見ない点だけれど、社内での評価で意識的に見ている点として問題解決の能力があります。本当は入社前に確かめたいんですが、限られた機会で架空のテーマや過去の実績質問などでは情報の具体性やコンテキストがわからなくて、確かめきれないんですよね。社内のとても面倒くさい問題、整理が全然つかない問題って売るほどあるんですけど、この人それが解けるんだというのは、ホワイトボード前で気づくみたいな。一緒に仕事をしているとすごいなと思うことはたくさんあるし、それが評価や抜擢などにつながっている気がします。

プロダクトと組織を、さらに次のフェーズへ

――「KARTE」のどのような点にポテンシャルを感じているかとか、今後の事業・プロダクトのビジョンについても教えてください。

先ほどの話にも通じますが、基本的に「ユーザーデータを解析してその人の特徴を把握し、それに合わせて価値を提供する」というのは、インターネット上で事業を展開しているすべての企業に通じる要素です。だからこそ、そこから逆算して考えると「どの企業の事業活動にも、私たちのサービスが入りこめる余地があるはずだ」という思いがあります。

そして、価値を生むためにあえて汎用性と抽象度の高いプロダクトとして、KARTEを中心にコンパウンドに取り組んできました。ただ、あらゆる可能性を鑑みて全体の事業ポートフォリオを書いていると、「まだまだ入り込めていないエリアが山ほどある」と実感するんですよね。多種多様なニーズを持った顧客に私たちのコアの技術を提供するには、プロダクトや機能のタッチポイントを増やしていく必要があります。

もう少し短期的な数年先の事業ビジョンとして、他には私たちは企業や自治体と共創して、データを源泉としたビジネスモデル変革や組織開発を担うプロダクト×ヒトの人的サービス事業も注力的に展開しています。これは主にエンタープライズ向けの事業で、今後はこれまでの事業で獲得できていなかった顧客も取り込んでいきたいと考えています。

先ほどの話にも通じますが、それに伴ってプロダクト単体ではなく複数のプロダクトを組み合わせて課題を解いていく必要も生じるはずです。セキュリティをエンタープライズ水準に高めていくことも求められます。

そうしたプロダクト導入に加えて、エンタープライズの保持する各種システムとKARTEシリーズのプロダクトとの連携機能も実装していきます。そして、プロダクトチームはこれら一連の構想を支えていきます。直近の数年間は、こうした施策に取り組んで会社の事業をより強くします。

また、プレイドでは既存のプロダクトラインナップとは別軸で、新規事業や新しい技術の研究・開発を行うLabチームが存在しています。シンプルに言うと、KARTEシリーズではないプロダクトへの挑戦を担う組織です。そのチームが既存事業で培ってきたデータ収集・分析などの技術を活用して、新しいプロダクトの可能性を探っています。Labチームの作る新規プロダクトに関しては既存の取り組みやその条件に縛られすぎずに、さまざまな展開を構想しています。

それから、組織改善のビジョンとして先ほど「リソースプランニングは中央集権的にしている」という話をしましたが、たとえばコストトラッキングの仕組みを導入するなど、リスクさえ排除できれば裁量を渡すことも可能だと考えています。つまり、自分たちの組織運営のDX化をして、より良い形の組織を築いていきたいです。

――柴山さんの個人的な目標はありますか?

私はやはりデータ分析が好きで、データを活用して何かの価値を生み出すことに意義を感じています。人間が何かのアイデアを創造するときって、情報収集を行ったうえでそれらを整理して、そこから知識を”紡ぎ出す”という作業をしますよね。その“紡ぎ出す”作業を行ううえで、たとえば手書きのメモ帳などは良いツールです。でも、ソフトウェアの世界ではそうした一連のプロセスを綺麗にやり切れる良いツールが、まだ存在していないと感じます。

私はデベロッパーやデータサイエンティストなど、ITのリテラシーが高い人が「データをより活用しやすい状態にしていくこと」に、ものすごく興味があります。私たちプレイドが提供したシステムによって、そうした人たちが新たな知識とか斬新なアイデアを生み出せるようになったら、めちゃくちゃ楽しいと思う。そういう仕事は好きだなと思っています。


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